■ 空地が次々に賃貸マンションやアパートになってゆく ■
最近、近所の駐車場が次々に賃貸マンションやアパートが建てられています。消費税増税後に勢いが衰えると思いきや、逆に増えている印象です。
これらの賃貸物件は相続税対策で建てられている物がほとんどでしょう。元は更地の駐車場で、月極1万5千円以上の場所がほとんどですから、収益率は非常に高いはずです。をれを敢えて借金をして賃貸物件を建てるのは、相続税を節約する為です。
相続時に資産は負債と相殺されますから、賃貸物件建設で借金をした方が、駐車場として土地を維持するよりも相続税が安くなります。
■ しわ寄せは古い賃貸物件に現れている ■
最近、私の周辺でアパート経営をしている友人や知人は「儲からない」とボヤキます。特に、築10年を越える物件を維持して利益を確保する事が難しくなっていると言います。
「近くの新築物件が安い家賃で貸し出した為に家賃を下げなくちゃ部屋が埋まらないんだよね。」と友人はボヤキます。「築10年にもなると、メンテナンス費用もバカにならないし、空き室が増えれば赤字になっちゃうよ」
実際に新築物件の家賃は過剰供給で下がり気味ですから、古い物件を持つオーナーは、空き室を発生させない為には、家賃を下げるしかありません。
■ 空き室率13.5% ■
現在日本全国では空き家率が13%に達しています。この数字は今後上昇してゆきます。人口が減少する日本において、空き家や空き室が増えるのは当然の事です。
ただ、この空き家の中には、本来は取り壊されるべき建物が放置されている物も少なくはありません。例えば、年老いた両親が老人ホームや介護施設に入居して亡くなった場合、自宅に居住する意思が有りながらも健康的、精神的理由により自宅を離れざるを得なかったと認められれば、空き家は「住居」として扱われます。
住宅地の中に荒れ果てた住宅が点在していますが、更地にするよりも、古い住宅が「住居」として残されている方が相続税が安くなるケースがあるのです。
空き家率13.5%の中には少なからず、この様な建物も含まれています。しかし、相続後には宅地として売られる事が多いと思われますので、新しい住宅が建てば、どこかが空屋になるので、空き家率が13.5%という数字が水増しされたは水増しされているという訳ではありません。
■ 空き家が増えると返済がままならない ■
私の知人の母親は父親から賃貸マンションを相続したそうですが、空き室が増えて、融資の返済がままならなくなったので、とうとう相続したマンションを手放したそうです。
私も自宅マンションが手狭になった時、賃貸物件を借りて自宅マンションを貸し出した事がります。この場合、確定申告をしなくてはなりませんが、ローンの返済を減価償却する方法が良く分からなくて、結局税金を沢山払った経験が有ります。
個人でマンション経営をする場合、確定申告など面倒な手間が増える事も注意が必要です。税理士を雇えるならば良いですが、入退出のあるマンションの経営管理や税務処理は意外に面倒です。
そんな苦労をしても、駅から少し離れた様な物件では空室が目立ち始めます。ある限界を超えると、マンションやアパートを建てた時に借りたローンの額が、賃貸収入を上回るケースも出て来ます。こうなると、ローンが焦げ付く事もあり得ます。
■ 銀行は土地建物を担保に融資している ■
ローンを借りる時に土地と建物を担保にしているケースがほとんどのはずですから、銀行はリスクは有りません。融資が焦げ着いたら担保を抑えれば良いのです。
賃貸経営を勧める建設会社も、建設資金は銀行融資で支払われるのでリスクは有りません。
ですから、銀行と建設会社が一緒になって空地のオーナーに甘言を弄し、賃貸物件の建設を勧めます。「消費税増税前に建てた方がこんなにお得ですよ」などと誘いを掛けます。
■ 一部を物納して駐車場にした方が儲かる? ■
駅から少し離れた物件では、将来的な空き室を考慮した場合、ローンを組んで無理して賃貸物件を建てるより、土地の一部を売却して相続制を払った方が、結局土地を手元に残せる場合も出て来ます。
賃貸物件には十分な駐車場が無い場合が多いので、駐車場のまま管理した方が将来の収益性が高いと予測されます。車の保有率にもよりますが、不便な場所では車が必需品です。
■ 10年後に顕在化する危機 ■
現在築10年以上の賃貸物件のオーナーの苦悩は、現在建設されつつある新築物件のオーナーの将来的な苦悩です。
さらに変動金利で融資を受けている様なケースでは、将来的に金利上昇にも注意が必要です。
■ 都心のタワーマンションは節税対策になるのか? ■
節税対策として最近流行しているのが都心のタワーマンションの購入です。これは、購入価格に対して、評価額が低く抑えられる事がメリットで、特に高層マンションは区分所有の土地が少ない事から、評価額の圧縮率が高い事が売りです。
その結果、相続税対策に富裕層がタワーマンションを購入し、タワーマンションの分譲価格が吊り上げられました。
問題はタワーマンションの販売価格が実際の価値を反映しているかという点で、高過ぎる値段で購入して賃貸物件として運用すると、賃貸料が安ければ節税効果が低くなって行きます。ましてや、空き家になってしまうと、損失が一気に膨らみます。
タワーマンションは既にプチバブル価格ですから、今後2割程度値下がりする事を念頭に入れる必要が有るでしょう。
■ 人口減少の悪影響はあらゆる所で表れて来る ■
リフレ派は「量的緩和によってインフレ率が上昇すれば、実質金利が下がり投資が活発化して日本経済は復活する」と言っていました。
しかし、実際に起きたインフレは円安によるコストアップと、消費税の便乗値上げがほとんどで、景気回復を予測したのは異次元緩和の直後だけでした。
住宅市場一つ取っても、人口減少が進む日本で市場拡大は期待出来ません。結局、プチバブルで過剰に供給された物件は、将来的な不良債権の芽となっています。
ただ、金融機関は先のバブルで不動産投資に慎重なので、そのリスクを庶民に追わせています。相続税対策の賃貸物件建設などはその好例です。
「日本経済はこんなもんじゃない」とか、「建設投資は増えている」などと主張する方も多いのですが、その実態は寒々しいものがあります。
ダウンサイジングする日本で、アベノミクスによって明らかになった事は、有ると思われていた潜在需要が実は存在しなかったという事では無いでしょうか。若者を中心に低所得化が進む日本では、「買い物をしたい」という人々の欲望は、需要に結び付かないのです。
一方で、資産を多く抱える老人達は、相続税対策やNISAで金融機関や信託銀行のカモにされています。
アベノミクスに良い点があったとするならば、日本の成長の限界を明らかにした事と、現在の収奪の構造を明確にした事にあるのでは無いでしょうか。将来的には「第二の小泉政権」と呼ばれる事は確実かと思われます。
あまり悲観的な事を書くとお叱りを受けそうですが、ダウンサイジングする日本では、従来の拡大志向では絶対に失敗します。イオン辺りがそろそろ限界に達するのでは・・・。