■ アリババの時価総額が25兆円に ■
中国企業「アリババ」がNY株式市場に上場を果たし、218億ドル(2兆3700億円)を調達しました。時価総額は25兆円。
一介の英語教師がアパートの一室で始めたビジネスが急成長して、とうとうNY市場に上場するまでになったというのは、アメリカンドリームならぬチャイニーズドリームを体現しています。
ところで、アリババというのはどんな企業なのでしょう。話題ばかりが先行して、私達に馴染みが薄い企業です。
■ B2Bによる企業間電子取引の仲介を本業とする ■
アリババのビジネスモデルはB2Bによる企業間電子商取引の決済仲介です。簡単に言ってしまえば、アマゾンや楽天市場の企業同士版。
1) 売りたい商材のある企業は、アリババに商品の広告を掲載します。
2) 広告を見た企業が、アリババを通してコンタクトし、商談を進めます。
3) アリババの収益の柱は企業の広告収入
アマゾンは企業(B)と個人(C)を直接結び付けるB2Cというビジネスを開拓して、中間コストを削減する事で、消費者も販売者もウマーのビジネスを作り出しました。これによって卸売など中間業者はビジネス機会が縮小するので、一種の破壊型ビジネスです。
一方アリババのB2Bは、従来の企業間のビジネスを作り出す上で、商品見本市や展示会の様な役割を果たしています。従来は、国際見本市などに出掛けて行って商品を見て商談を進めていた所を、ネットでやってしまおうという発想です。
アリババのビジネスで衰退するのは商社などの仲介業者です。
■ 巨大な中国市場と、安い中国製品が武器 ■
アリババに似た様なビジネスモデルを提供するネット起業は他にもあるでしょうが、アリババに注目が集まるのは、やはり中国で既に成功している点では無いでしょうか。
要は、アリババに広告を出す企業は「中国の巨大な市場」に期待しており、一方、中国企業は安さを武器に世界市場に直接進出する事を狙っているのです。
アリババがもし楽天の様な日本の企業で、既に日本でB2Bのネットワークを構築していたとしても、これ程までには注目されなかったはずです。
■ アリババは第二のアマゾンになれるのか? ■
フェースブックの上場がNY市場を沸かせた事は記憶に新しいと思います。しかし、フェースブック株は上場直後から値を下げています。話題ばかりが先行して期待を煽りましたが、フェースブックのSNSというビジネスが将来どの様にお金を生み出して行くのか、今一つ不透明な所があるからです。
一方、アリババのビジネスモデルは明確です。そして、従来、地理的、或いは言語的に分かたれていた世界の企業を、アリババのシステムの上で結び付けるメリットは非常に大きいと誰もが考えます。
今後アマゾンを始めとして様々なネット起業がアリババに挑戦すると思われますが、アリババの最大の武器は世界最大の市場で、世界最大の工場である中国を既に押さえている事です。
「アリババが第二のアマゾンになれるのか」という問いに対する答えはYESだと思います。
■ 唯一の不安材料は中国国内に有る ■
順風満帆に思えるアリババですが、アリババの最大の武器である中国が、アリババにとってもウィークポイントになるリスクは念頭に置いて置く必要があります。
世界的景気後退の影響で、中国国内の生産活動は鈍化しています。さらに中国の不動産市場はそろそろ限界に達するので、理財商品の崩壊など、バブル崩壊の兆しが見え始めています。
これに追い打ちを掛けるのがTPPでしょう。中国抜きのTPPが成立した場合、TPP域内での貿易の拡大は、中国の製造業に少なからぬ影響を与えます。
この様な様々なマイナス要因によって中国経済が失速した場合、中国で最も心配されるのは国内での暴動の発生と拡大です。社会的な歪みが高まっている中国では、連日の様に暴動が発生していますが、経済が破綻すれば、これが全国規模で急激に拡大するでしょう。
当然、中国政府は武力を持ってこれを鎮圧しようとします。第二の天安門事件が全国規模で起きるのです。
これに対して、人権に敏感なアメリカ人が黙っているはずが有りません。対中貿易の制限などの経済制裁を実行する可能性は低くは有りません。日本などもそれに追随せざるを得ないでしょう。
アリババに死角があるとすれば、中国国内の経済と政治問題なのです。
■ 孫氏の先見性と危険性 ■
ソフトバンクの孫氏はアリババの成長性を見抜いていた点において投資の天才です。今回の株式上場で所有するアリババ株は5兆円の値打ちがついたと報道されています。
ただ、これは5兆円儲かったのでは無く、所有するアリババ株の時価総額が5兆円になっただけで含み益が増えただけです。株を売却しなければ利益は確定しませんが、今、大量のアリババ株を売りだせば、せっかくの株価が下落するので、孫氏は当分はアリババ株は売らないと明言しています。
一方でアリババ株はソフトバンクが銀行から資金調達する際には資産と見なされ、ソフトバンクのバランスシートもお化粧してくれます。突然5兆円の資産が増えた訳ですから、2兆円、3兆円といった負債が小さく見えてしまいます。
しかし、前述した様に、アリババ株は中国の政治的リスクを抱えていますから、将来的にはリスクが無い訳では有りません。
中国が現在のバブル経済を上手にソフトラディングできるのかどうか、「中国リスク」は今まで以上に注目が集まるでしょう。
そして陰謀論的には、中国のバブル崩壊と、国内の混乱の目を逸らす為の日中紛争は既に既成事実だと思っています。「尖閣紛争」と呼ばれる軍事衝突の準備は既に済んでいます。
韓国の動向が気になりますが、朝日新聞が従軍慰安婦問題の報道を訂正した事で、アメリカ主導で日韓関係の修復が進むのならば、中国VS日米韓という対立になるのかも知れません。
緩和マネーに浮かれる市場が崩壊する時、様々な仕込みが発動するのでしょう。アメリカが利上げをして1年後位に世界はどうなっているのか?2017年は歴史の教科書に残る年になるのかも知れません。