
■ 究極の燃料電池 ■
昨日に続いて燃料電池のお話。
燃料電池車が世間で言われている程エコでも高効率でも無い事を説明しましたが、実は究極の燃料電池車が世の中には既に存在します。それが上の写真・・・。
「エーーー!!、フェラーリ!?」と驚かれたかと思いますが、「馬」です。
■ 生体内のエネルギー生成は水素を活用している ■
酸素呼吸をする生物は、食べ物を摂取してそのエネルギーを取り出して生きています。
コマーシャルなどで「脂肪を燃焼させる」などという表現がされる様に、多くの人は体の中でゆっくりとした燃焼反応が起こり、食べ物がエネルギーに変化するイメージをお持ちかと思います。
ブドウ糖(グルコース)が燃焼によって二酸化炭素と水に分解される化学式は次の通りです。
C6H12O6+6O2→6CO2+6H2O + 燃焼エネルギー
しかし、実際に体内で起きているエネルギー発生のプロセスはもっと複雑で、水素電子を利用した燃料電池がそのイメージに近い。
呼吸の化学式
C6H12O6 +6O2→6H2O + 6CO2 + 36ATP
解糖系
反応場所:細胞質=細胞の小器官(核やミトコンドリア)以外の部分
グルコース(C6H12O6)
→ 2×ピルビン酸(C3H4O3)+4×エネルギーを持った水素(2NADH2)
→ 2×ATP
グルコースが分解され、2分子のピルビン酸になる。その過程でエネルギーをもったH(水素)がNADに渡されNADH2ができ、さらにATP2分子もできる。NAD(FAD)は補酵素で、エネルギーをもった水素の運搬タンパク質である。
クエン酸回路
反応場所:ミトコンドリアの内膜に囲まれた領域(マトリックス)
2×ピルビン酸(C3H4O3)+6×水(H2O)
→ 6×二酸化炭素(CO2)+20×エネルギーを持った水素(8NADH2、2FADH2)
ミトコンドリアに入ったピルビン酸は分解され、二酸化炭素とC2(活性酢酸)ができる。そのC2がクエン酸回路のC4と結合し、C6になって回路がスタートする。
一回転する間に2分子の二酸化炭素とエネルギーをもった水素がNADとFADに渡されNADH2、FADH2ができる。C2が入ってきて、二酸化炭素としてCが2個出ていくので、一回転しても炭素数は変わらない。このような反応系を回路と呼ぶ。
電子伝達系
反応場所:ミトコンドリアの内膜
24×エネルギーを持った水素(10NADH2、2FADH2)+6×酸素(O2)
→ 12×水(H2O)
→ 34×ATP
解糖系とクエン酸回路で得られたNADH2、FADH2がエネルギーを持った水素を電子伝達系の酵素に渡す。エネルギーを持った水素は水素イオンとエネルギーを持った電子に分解する。水素イオンはマトリックス内部に排出され、膜の酵素が電子を受け取る。酵素は電子が放出するエネルギーを使って、水素イオンを膜外に運び出し濃度差を作る。水素イオンがもとに戻ろうとする力を利用してATPを合成する。最後に電子は酸素に渡され、水ができる。

ATPというのはアデノシン三燐酸の略称で、この物質は二つの高エネルギー燐酸結合を有しています。高エネルギー燐酸結合は結合エネルギーが高い状態なのでリン酸基の加水分解や転移反応によってエネルギーを放出します。
このエネルギーが生体内の化学反応のエネルギー源をして利用されます。
解糖系 - グルコースのリン酸化など
筋収縮 - アクチン・ミオシンの収縮
能動輸送 - イオンポンプなど
生合成 - 糖新生、還元的クエン酸回路など
ATPは生体内で作り出される微小な燃料電池なのです。
■ 光合成では光のエネルギーによって水素イオンを発生し炭化水素を生成する ■
動物は炭化水素と酸素を摂取してエネルギーを作り出しています。これに対して光のエネルギーを利用して、空気中の二酸化炭素と水から炭化水素を作り出すのが植物です。これは太陽光発電によって得られたエネルギーを炭化水素(石油も含まれる)の形で貯蔵するプロセスです。
光合成の化学式を簡単に書くと次の様になります。
12H2O+6CO2→C6H12O6+6O2+6H2O
この反応を起こすのに光のエネルギーが使われます。
光は植物の葉緑体内にあるクロロフィルという色素に吸収されると自由電子を放出します。この自由電子が様々な化学反応のエネルギーとして使われ、ATP(アデノシン三酸)とNADPH(ニコチンアミドジヌクレオチドリン酸)が生成されます。
12 H2O + 12 NADP+ → 6 O2 + 12 NADPH + 12 H+(in)
72 H+(in) + 24 ADP + 24 Pi (リン酸) → 72 H+(out) + 24 ATP
これが光合成の「明反応」と呼ばれる部分です。
植物は明反応で生成したNADPHやATPをエネルギー源にして、水と酸素からブドウ糖(グルコース)を造ります。この反応は光を必要としないので「暗反応」と呼ばれています。
■ 究極のエコとは、現在の電気を基盤としたインフラ ■
水素社会はこれらの植物の光合成や動物の呼吸の、水素の部分だけを取り出したものです。水素は単純なので、エネルギーとして利用し易いのです。
一方、自然界では、水素は大気中に分散してしまって貯蔵が出来ません。植物の光合成の原動力はクロルフィルにあたった光エネルギーによって放出される水素イオンですが、それを貯蔵可能なエネルギーとする為にブドウ糖(グルコース)を合成します。これは石油と同様な炭化水素です。
ですから、石油や石炭は過去の時代に地球に降り注いだ太陽光エネルギーを植物や動物が炭化水素として固定化させたものであり、私達はそれを燃焼させることでエネルギーを取り出しています。
太陽電池は太陽光のエネルギーを電気に直接変換するので、水素を介在しません。取り出された電気エネルギーは送電線を通して利用箇所に送られます。
燃料電池車が必要とされるのは、自動車が送電線に接続されていない為で、これが電車ならば電気のエネルギーを直接利用出来ます。
・・・・水素社会などと大げさな事を言っていますが、要は車に限定された話しであって、現代の電気を基盤とした社会インフラが大きく変るわけではありません。
自動車とて、急速充電可能な高容量のバッテリーが開発されれば、水素燃料電池車の需要は一気に縮小してしまいます。
国として予算を投入すべきは「燃料電池」などでは無く、現在のインフラが有効に仕える「高性能バッテリー」のはずなのですが・・日本の役人は何を考えているのやら・・・。
■ 究極の発電機 ■
ところで究極の発電機は何かと言えば・・・ミトコンドリアなのでは無いか?
もし、仮に人工的にミトコンドリアの水素電子発生プロセスを高効率に再現できるのならば、車はガソリンを入れて、水素を取り出してモーターで走る事が出来ます。
二酸化炭素と水が排出されますが、これは現在の内燃機関のエンジンも同様です。ここで重要なのは、燃焼よりも水素生成反応の方が大きなエネルギーを取り出せる事にあります。
こう考えると、究極のバッテリーは・・・・ミトコンドリアなのでは無いか?
ミトコンドリアは従来は私達のご先祖様の単細胞生物とは別の生き物でした。ところが地球に酸素が大量に存在する様になった時、私達のご先祖様の単細胞生物は、よりエネルギーを得る為にミトコンドリアを細胞内に取り込んで、エネルギーの生産工場として利用し始めたのです。
ミトコンドリアとしても、それが生存確率を高めるのに役立ったので、私達のご先祖様との共生関係を選んだのでしょう。
自然界は補助金など存在しないので、いつでも合理性が支配しています。資本主義も合理性が支配しているので、下手な補助金は競争力を弱めることはあっても強めることに役立たないのが昨今の風潮では無いでしょうか。
トヨタが補助金に頼って燃料電池車の開発をするのなら、その未来はあまり明るいものでは無いはずです。