■ アメリカの勝利の方程式? ■
私は次なる金融危機の震源地は、やはりアメリカだと妄想しています。金融緩和バブルでどうにか体裁を保っていますが、そのバブルが継続しているのは実態経済が回復していないから。
仮にアメリカが利上げに成功したならば、金利体系が正常化して当然予想インフレ率も上昇します。金利が正常化する事で「借金をするメリット」が借りて側にも、貸して側にも戻って来ます。
借りては「金利がさらに上昇する前に借りておこう」となり、貸して側は「金利が正常に取れるならばリスクを取ろう」と考えるのです。これで住宅市場に活気が戻れば、アメリカの内需は拡大し始めます。アメリカの内需に占める住宅市場は関連産業も含めると小さくはありません。さらに、インフレ率が正常化する事で購入した住宅価格が値上がりすれば、新たな担保が生まれるので、消費好きのアメリカ人は新たな借金をして消費を拡大します。
これがFRBと米国政府が思い描く「勝利の方程式」でしょう。
■ 金利の正常化に脆い、金利が下がり過ぎた債権市場 ■
しかし、私はアメリカの実態経済が回復する前に「バブル崩壊」が起こると妄想しています。IMFも警告を出している様に、次なるバブル崩壊は「ジャンク債市場」で発生し、それが債権市場とそのデリバティブ市場に伝搬するして行きます。
FRBは量的緩和によって「超低金利の資金」をばら撒いてきました。その為、債権市場にも大量の資金が流入し、結果的には債権価格を押し上げ金利を低下させました。少しでも金利が確保できる債権として「ジャンク債」が注目を集め、ジャンク債の金利が5%を切るような状態が続いていました。
アメリカの企業のジャンク債は、日本の投資家にとっても金利が魅力的に映ります。『ハイ・イールド債ファンド』などの呼び名で大量に販売されています。『イールド』とは『金利』の事で、直訳すれば『高金利債』となります。しかし、その実態は『ジャンク債=ゴミ』なので、『ゴミ箱ファンド』と呼んだ方が相応しい金融商品です。
『ジャンク債』とはデフォルトリスクの低くない債権の総称ですが、業績的に金融機関から資金調達すると高い金利を支払わざるを得ない企業が、金利の低下によって安い金利で『社債』を発行しています。本来10%以上の金利を支払わざるを得ない企業が5%以下の金利で資金調達しているのです。
■ アップルなどの高収益を支える『自社株買い』と『社債市場』 ■
ジャンク債の金利が低下した最大の理由は、普通の企業の発行する社債の金利が下がり過ぎた事が原因です。アップルなどの社債の金利は極限まで低下しています。30年固定金利が3.8%で発行されています。米国債並みの金利で企業が資金調達出来ているのです。
アメリカの優良企業の業績はリーマンショックで低下しますが、その後、市場最高益を出す企業が増えています。これをして「米国景気は回復している」とされていましたが大間違いです。
リストラによる人件費の削減もさることながら、社債の金利低下によって資金調達コストが極端に低下した事が業績向上に大きく貢献しています。
1) 安い金利の社債を発行して、高い金利の負債を返済し有利子負債を圧縮
2)安い金利の社債で資金調達して、リーマンショックで下落した自社株を買う
3)株式発行による配当コストを、自社株買いによって圧縮
4)株価アップによって株式発行の利益も拡大
4)自社株買いによって株価を吊り上げ財務状況をお化粧する
この様に『社債市場で安く資金調達して自社株買いをしする』というソリューションは簡単に『自社株買い』と呼ばれ、アメリカの優良企業の経営のトレンドとなっています。
■ 金利の正常化で損をする社債保有者たち ■
「国債も社債も償還期限まで保有すれば損はしないじゃないか」と思われるかもしれませんが、これはあくまでも「満期保有」を前提とした投資家に限った話です。
実際には国債も社債も活発に売買されて、金利差で利益を稼ぐ運用がされています。債権ファンドのマネージャ達は、運用利回り確保する事が使命なので、金利上昇局面において金利の安い債権を手放そうと必死になります。その為、債権市場で金利の安い債権が売られ債権価格が下落します。(金利は上昇)
先述のアップルが4月に起債した170億ドルのの30年固定金利(3.85%)の保有者達は、価格が下落した為(金利は4.1%に上昇)1億2820万ドルの時価総額が失われています。要はアップルの社債を低金利で購入した投資家は含み損を抱えた事になるのです。
『金融緩和バブル』の問題点は、ジャブジャブに供給される資金が市場に流れ込む事で、金利が必要以上に低下し、金利上昇局面において損失が発生する点に集約されます。
優良企業のアップルであれば、満期保有で元本と金利を手にする事は可能かも知れませんが、企業の歴史を考えた時、30年後に存続している企業は一握りしかありません。その事まで考慮すればアップルの30年債の3.8%という金利は異常に低すぎるのです。
これは、ソフトバンクが個人向けに販売した社債についても同じ事が言えます。ソフトバンクの財務状態や今後の国内での需要増加、アメリカのプリンストネクステルへの無謀な投資などを考慮すれば、ソフトバンクの社債の金利は低すぎます。しかし、低金利で金利機会が減少すると個人投資家達はこのような債権を『得をした』と錯覚して買ってしまうのです。
リーマンショック以降の緩和バブルによって、債権市場は国債も含め『金利上昇リスク』に対して非常に脆弱になっています。
■ リスクは既に世界中にばら撒かれている ■
そして今、最も破綻が心配されているのが、サブプライム層の自動車ローンと、アメリカの学生ローン、シェール関係を主体とするエネルギー企業の社債(ジャンク債)です。これらのローンはリーマンショックの発端となったMBS(住宅担保証券)の様に、細切れにされ、リスクが見えにくくされて様々な金融商品に加工され全世界にばら撒かれています。これらの債権や金融商品はは金利上昇局面で確実に破綻します。
■ ダムは一番弱い所から亀裂が生じやがて決壊する ■
上記の債権の総額は、債権市場全体に比べれば決して大きくはありません。アナリスト達はここの債権の破綻リスクを計算して、「この程度なら市場に大きな影響を与えない」と言っています。
しかし、破綻は自動車ローンや学生ローン、あるいはジャンク債市場で単独で発生するのでは無く、リスクの高い債権が同時多発的に破綻します。こうなると市場の常で「次は何処だ!?」と疑心暗鬼に囚われ、流動性が一気に枯渇して市場は機能停止に陥ります。
健全な社債市場も影響を免れ得ず、優良企業であっても現在の様な安い金利で資金調達する事は不可能になります。
従来はリスクオフの局面で債権が買われ、リスクオンの局面で株式などのリスク資産が買われてきました。しかし、債権市場が崩壊すると資金は逃げ場を失います。特にアメリカの株式市場における自社株買いの影響は低く無いので、社債市場で資金調達が困難になると、自社株買いも停止します。
この事を良く知っている投資家達は、社債市場で金利上昇が本格化すると見れば、米株市場も暴落すると予測します。
こうして、サブプライムの自動車ローンや、貧乏学生の学資ローン、自転車操業のシェール企業の社債といった、最も脆弱な所で起きた亀裂は、やがて債権市場から株式市場にまで伝搬する事になります。
■ 住宅市場でバブルが起きる前にバブルが破綻する事こそがブラックスワンの正体 ■
市場関係者は、そろそろ次のブラックスワンが現れる頃だと薄々気づいています。ただ、前回のサブプライムローンの破綻の様に、ある程度の規模の市場が破綻すると予測して次なる危機に備えてるはずです。
ただ、米実態経済の回復は弱く、住宅市場も消費者ローンも、バブルと呼ばれる様な加熱感は有りません。ですから、ブラックスワンは当分現れないと考える市場関係者は少なく無いはずです。
しかし、問題は「金利上昇」によって池の推移が等しく下がって行く事にあります。実は水面下ではあっちも、こっちもリスクが身をひそめていますが、水位が低下する事で、それらが一斉に姿を現すのです。
これが次なるブラックスワンの正体では無いかと私は妄想します。
■ 世界全体がリスクの塊になっている ■
次回の危機の特徴的なのは「世界全体で崩壊が起こる」事でしょう。
金融緩和バブルは新興国の大量の資金流入を発生させています。米利上げの予測だけで新興国市場は既に資金還流によって脆弱化しています。
中国は、リーマンショック後に世界経済を支える為、国内に大量の資金を供給し続けてきました。これらの資金は理財商品(シャドーバンキング)という投資によって、既に巨大な損失を抱えていて、いつ破綻してもおかしくない状態です。さらに、過剰な不動産投資によtって不動産市場も崩壊寸前となっています。
ヨーロッパのリスクはやはり南欧債でしょう。そしてそれらを大量に保有する銀行セクターがリスクの中心になるはずです。そもそも、リーマンショックで破綻したデリバティブ商品の6割をヨーロッパが保有していたと言われています。現在は市場が安定しているので、そのリスクは見えにくくなっていますが、再びリスクが顕在化した場合、ヨーロッパの銀行はどこも疑心暗鬼に陥り、流動性が一気に枯渇するはずです。これはリーマンショック直後と全く同じ現象が起きるわけです。
■ 債権市場のリスクが国債市場の伝搬したら日本はヤバイ ■
日本のリスクはやはり日本国債でしょう。
日本国債は長期的には既に破綻していますが、日銀が日本国債市場をジャックする事で金利上昇を抑え込んでいます。現在の日本国債市場が維持されているのは、日銀という大きな買い手を相手に金融機関が利益を出す構造が継続しているからに過ぎません。
例えば次なる金融ショックが発生し、それが欧州を始めとする国債市場に飛び火した時に、日本国債を保有する日本の金融機関がどういう行動に出るかは未知数です。誰も売らなければ問題は有りませんが、日本国債の金利がジリジリと上昇し始めた場合、国債の運用を任された人達は、刻々と増大する含み損にいつまで耐えられるでしょうか・・・。
もっとも、この時点では既に日本株市場は暴落を演じているはずで、株式や外債、外国株のい運用を手じまいした資金が日本国債に逃避するという筋書きはゼロでは有りません。ただ、いままでは安全な逃避先と思われていた日本国債が、この時点で安全と判断されるかは??です・・・。
■ みんなダメダメになる所から、世界経済と通貨システムが再設計される ■
先日の通貨の三極体制の記事のコメント欄で、「中国の実態はダメダメです」的なコメントをmuffさんに頂いております。これは尤もなご意見で、中国の現状を冷静に判断すれば、元の国際化などは夢の又夢の様に思われます。
しかし、アメリカもヨーロッパも日本も新興国も途上国も中国も、みんなダメダメの状況が起きたら、話は違って来ます。
中国は過剰なまでの生産設備と、住宅を含めて少々過剰なインフラと、少々過剰な人口と、そこそこの資源を抱えています。要は成長力は依然として高いのです。
日本はバブル崩壊後に不良債権の処理を10年以上続けました。これが日本の失われた20年に繋がります。しかし、中国は不良債権を一気に処理するでしょう。所謂「徳政令」ですが、多少の混乱があっても古来、バブル崩壊の後処理として最も有効なのが「徳政令」です。
個人の権利が強くなった現代において先進国で徳政令を実行する事は不可能でしょう。(海外に対しては平気でデフォルトを選択しますが・・・)
しかし、共産党一党独裁で国民の権利の弱い中国ならば「徳政令」は実行可能です。国民が暴動を起こすかも知れませんが、その時は戦車の出番です。世界が黙っていないでしょうが、世界の声よりも共産党一党独裁を優先するのが中国です。
国民も命が惜しいでしょうから、暴動は体制を崩壊させる事は出来ずに鎮圧されると思われます。そもそも、共産党以外に国民をまとめられる指導者が見当たりません・・・。
こうしてBRICs諸国は、半ば強引な手段で混乱を乗り切るでしょう。一方で先進国各国は有効な手立てを打てずに危機が長引くはずでし。多分、中央銀行が大量に資金を投入するのでしょうが、事ここに至って「通貨の信用問題」が発生するはずです。
リーマンショックのい直後に「ドル基軸体制の継続性」に注目が集まりましたが、やはり大規模な金融危機を2回も起こせば、さすがに「ドルとアメリカに任せる訳には行かない」となるはずで、全ての通貨の信用が棄損する中で、次の通貨体制が模索されるハズです。
■ 勝者が居ないから良いのだ ■
一見、誰も勝者の居ない次なる金融危機ですが、現在のドル基軸体制が発足して70年以上が経過し、このシステムは既に制度疲弊を起こしています。
金融市場を肥大化させ続ける事で資金需要を作り出して延命して来たドル基軸体制は、金融市場の自己崩壊によって終焉を迎えるはずです。
ただ、ユーロも円もポンドも元もルーブルも、まともな信用を維持できる通貨はその時点では存在しないのかも知れません。(スイスフランは・・・・?)
勝者が居ないから敗者も存在しない・・・こんなマイナスにフラットな世界から次なる世界が始まるのかも知れません。
多分、最初は敗者の寄せ集め的な地域連合が形成されるのでしょう。日本はやはりアメリカ組でしょう・・・。そしてそれぞれの地域連語が地域の基軸通貨を発足させ、通貨の信用を回復させてゆく事でしょう。
全くの妄想ではありますが、これでいいのだ・・・・そんな気もします・・・。
問題はそれが「何時」なのか・・・これだけは「神」のみぞ知る。