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シェール企業のジャンク債を支るGPIF?・・・消える年金

2015-11-02 03:45:00 | 時事/金融危機
 

■ 世界的株安で10兆円の損失を出したGPIF ■

私達の年金の積立金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)ですが、かつては日本国債主体で運用されていました。しかし、日本国債の金利が低下して運用益を確保する事が難しくなった事より、運用比率の見直しが行われ、国内株式や海外株式、海外債権などのリスク資産に分散投資して運用益を確保する方針に変わっています。



日本経済新聞 より

その結果どうなったかと言えば、7~9月期の世界的な株価下落によって10兆円近い評価損が出ています。

ただ、株価が戻れば評価損は縮小、あるいは評価益が出るので、短期の損失をとやかく言っても仕方ありません。それが「リスク資産」で運用する「リスク」であり、その為に日本国債よりも高い金利が期待できるからです。

■ 国民の年金積立金をジャンク債に投資するGPIF ■

この度、GPIFは格付け「ダブルB以下」の債権も投資対象とすると発表しています。「ダブルB以下」の債権とは、投資不適格な「ジャンク債」のを指します・・・。

ちなみに各国国債でBB+以下の国は下記の通り


BB+

ブルガリア、インドネシア、ブラジル、トルコ、ロシア、ハンガリー
ポルトガル

BB クロアチア

BB- キプロス

・・・おいおい、正気かよ・・・。

■ 低金利の歪が溜まる債市場 ■

世界的な金融緩和によって債権金利は極限まで低下しています。アメリカの10年債金利ですら金利は2%です。日本の10年債金利が0.3%程度ですからマシとも言えますが、2%の金利など為替がちょっと円高に振れただけで消し飛んでしまいます。例えば120円/ドルが115円/ドルになっただけで4%の為替差損になります。

国債投資で儲けが出ないのは世界的な傾向で、世界の銀行は利益の出にくくなった債権取引部門を縮小しています。先日、クレディースイス銀行は欧州のプライマリーディーラ部門から撤退する事を発表しています。

クレディースイスの決断は極めて懸命だと言えます。現在の低金利がいつまで続くか分からない状況で国債投資に資金を固定化される事は危険と判断しているのです。FRBが年内利上げをほのめかせていますが、利上げに失敗した場合、国債の金利がポンと跳ね上がる事も考えられるからです。

要は、比較的安全資産と言われる国債ですら、過剰流動性の流入によってリスクと金利が見合わなくなっています。

■ 資金が流失しているジャンク債市場 ■

ジャンク債(ハイイールド債)は信用の低い会社の社債などの総称ですが、リーマンショック後の世界的な金融緩和によって資金が流れ込み、金利が5%程度まで低下していました。

しかし、昨今のリスクオフの流れを受けて金利がジリジリと上昇しています。下のグラフはアメリカのジャンク債の金利ですが8%近くになっています。



債権の金利が上昇するという事は、価格が下落している事を意味します。これは、ジャンク債市場から資金流失が起きている事を意味します。

■ GPIFの資金をジャンク債市場の下支えに使うのか? ■

GPIFがどれだけの資金をジャンク債に振り向けるかは不明ですが、140兆円の資金の5%だけでも7兆円になります。ちなみに、世界のジャンク債市場の規模は2兆ドル(240兆円)に達しています。

9月の1か月だけで、アメリカのミューチュアル・ファンド(オープンエンド型信託投資)からは35億ドル(4200億円)の資金が流失していますが、GPIFの資金規模はこれらの穴を塞ぐ額としては十分に巨大です。

■ ジャンク債市場の危機の発端と成りうるシェール企業 ■

低金利によってジャンク債市場全体が巨大なリスクの塊となっていると言えますが、特に危険視されているのはシェールガス開発の企業が起債した社債でしょう。ジャンク債の新規起債の16%程度にもなっているアメリカのエネルギー関連企業の社債ですが、世界的原油安の影響を受けて取引が停滞しています。

シェールガスのガス田は、採掘初期に算出される原油を売る事で採算を確保していました。最近は40~60ドル/1バレル程度の産出コストになっている様ですが、原油価格が40ドルですから採算が取れません。

シェール企業の多くは、ジャンク債市場で資金調達していましたが、そのジャンク債はデリバティブ商品に加工されて、アメリカの銀行6行だけで、3兆9千億ドルの残高が有ると言われています。

9月16日にシェールガス大手のサムソン・リソーシーズ社が41億5千万ドルの負債を抱え倒産しています。原油安が続けば倒産する会社が多く出るのではと予測されています。この様な状況でシェール企業の社債発行コスト(金利)は当然上昇しており、経営をさらに圧迫します。

■ 第二サブプライム・ローン危機になるのか? ■

リーマンショックの発端になったサブプライムローンの残高は1.3兆ドルでした。一方、シェール企業(62社)のジャンク債の総額は負債総額は2350億ドルで規模はサブプライムローン程は大きくありません。ただ、負債総額は売上総額の5倍に達しています。

リーマンショックの反省から、ジャンク債を元にしたデリバティブ商品(CDO=債務担保証券)は、リスクの度合によって組成されている様で、シェール企業がいくつか倒産した所で、これだけでジャンク債市場が崩壊する様な事は無いでしょう。

しかし、昨今のジャンク債市場の金利上昇を見るにつけ、投資家達は危機が起きれば一気にこの市場から資金を引き揚げる準備はしているでしょう。市場の危機はは、冷静に考えれば市場を崩壊させる様な要因で無いものが引き金になる事がほとんどです。「そろそろヤバイかなという空気」が市場に充満している時には、ちょっとした切っ掛けで市場は暴落します。

GPIFが運用を予定しているBB格以下の債権が、外国の国債なのか、シェール企業を始めとした社債なのかは定かではありませんが、アメリカの金融資本家達が、資金を最も必要としているのは、エネルギー関連企業のジャンク債でしょう。

「ここは又、日本人にお金を出してもらおう・・・」こんな会話を妄想してしまうGPIFのジャンク債運用のニュースです・・・。


・・・それ、私達の将来の年金なんですけど・・・。