■ 小泉改革以来、所得移転の経路が変化した ■
田中派(経政会)が力を持っていた当時の自民党の票田は地方でした。この当時、自民党は東京など大都市で徴収された税金を、公共事業として地方にバラ蒔く事で、利権を生み出していました。これは富める者から貧しい者への所得移転の意味合いを持っていました。
小泉改革以来、日本の所得移転の経路が徐々に変化します。
成熟国家となった日本では、公共事業の乗数効果が低下します。地方の必要なインフラはほぼ整備されてしまったので、さらなる公共事業は「無駄」を生み出すだけとなります。(所得移転としての効果は残りますが)そこで、小泉政権以降、公共事業は削減されます。
一方で、郵政民営化と同時に金融が自由化されるなど、多くの規制が撤廃され、日本は徐々にグローバルスタンダードに近づき始めました。
平成のバブル崩壊以降、日本の株の持ち合い制度は解消され、多くの大手企業で外国人投資家の影響力が高まりました。彼らは株式の配当の拡大や、短期の企業利益の増大による株価上昇を求めました。企業は利益を拡大する為に非正規雇用を増やします。
■ 労働者から企業への ■
消費税増税の裏で法人税が減税されようとしています。
自民党に一番強い影響力を持っているのは、政治資金を供出してくれる経団連を始めとする大企業です。減税は手っ取り早く利益を拡大する手段です。
自民党は政治献金の見返りとして、法人税減税を強行するでしょう。一方、足りなくなる財源はどこかで補わなければばりません。そこで消費税率が引き上げられます。
国民の多くは、非正規雇用の拡大という形で企業に所得移転されたあげく(本来貰えるべき所得が株主に配当される)、さらに消費税が法人税減税の財源となる事で、さらに労働者から企業への所得移転が進みます。
■ 若年層から高齢層への所得移転 ■
現在の日本では65歳以上の高齢者は年金が受けられます。年金の原資は現在労働者が支払っている年金と、税金です。
一方で、日本の資産の2/3以上を60歳以上の高齢者が保有しています。年金や税金は若い労働者から集められ、若者よりも富裕な高齢者に配られています。
所得の低い若者から、資産の多い高齢者への所得移転が発生しています。
■ 優遇される富裕層 ■
「トリクルダウン」という言葉が持てはやされた時期もありましたが、IMFはこの効果に懐疑的な見解を示しています。
富裕層が富めば富む程に、彼らの消費が拡大して、それが下々の者まで効果が波及するという理論(?)ですが、富裕層に集中する富の度合いに対して彼らの消費は限定的です。彼らはゲームのスコアーの様に資金力に物を言わせて金利を荒稼ぎしますが、相場の上昇は庶民のなけなしの投資に支えられています。
異次元緩和でジャブジャブと供給される資金は、株式市場や東京都心の不動産市場を半ばバブル化していますが、それによって恩恵に預かるのは主に富裕層です。
一方、異次元緩和によって積み上がる財政赤字は、将来的に国民が税金もしくはインフレ税で支払います。
低金利によって庶民のささやかな貯蓄には金利が付かず、富裕層は投資によって資産を拡大しています。ここでも貧しい者から富める者への所得移転が発生しています。
■ 豊な中間層が居なければ消費は減退し、経済は縮小する ■
様々な場所で貧しい者や中間層から、富裕層や大企業や高齢者への所得移転が発生していますが、結果的に「購買力に富んだ豊な中間層」を貧困に追いやることで、経済は縮小する事になります。
一方、金融市場は実体経済の低金利を背景に、マネーゲームの場として資金を吸収しつづけ、実体経済の流動性を損なっています。
「何故、不景気なのか」、「何故世界的に需要が足りないのか」・・・・その答えは比較的単純で、所得の再分配の経路が変わってしまったことにこそ最大の原因があります。
大企業や富裕層や高齢者に支持された現在の世界各国の政府にこれを是正する事は不可能で、行き着く所まで言って自己崩壊を起こすまで、資本主義の暴走は止まることが無いのでしょう。