■ イギリスは何故中国に急接近するのか? ■
ドイツが中国と関係を深めている事には「輸出」という実利から当然の事に思えます。一方、AIIB(アジアインフラ投資銀行)への出資表明以降のイギリスの中国への急激な歩み寄りは不自然に見えます。
しかし、世界最大級の銀行の一つである「香港上海銀行(HSBC)」が本社をイギリス国外に移転する事を昨年表明している事からも(多分、香港になるでと思いますが)、イギリスの金融資本家達は中国を中心としたアジアが今後世界の成長センターとなる事を見越した動きを見せています。
■ 購買力平価で算出した場合、既に世界最大の経済大国となった中国 ■
中国は既に世界最大の輸出額を誇りますが、GDPもアメリカに次ぐ世界第二位の経済大国です。しかし、人民元は中国政府が安く誘導している為、購買力平価で比較した場合、既に中国はアメリカを抜いて世界第一位の経済大国になっています。
イギリスの金融資本家達が、世界第一位の経済大国、それもこれから、さらに成長するであろう中国を放っておくはずがありません。
■ 人民元の価値はドルによって担保されている ■
中国は事実上世界第一位の経済大国となりましたが、一方でその通貨である人民元は中国政府が管理する「不完全な通貨」です。
人民元は「ドルに緩やかにペッグ」しています。これは人民元の信用力をドルによって補完している事を意味します。
中国政府は国内のドルを一元的に管理しています。輸出によって大量に手に入れたドルは、中国人民銀行がほぼ保有しています。中国人民銀行の資産の多くがドルなのです。中国国債にはほとんど国際的信用は有りませんから、人民元の信用は、人民銀行のバランスシートの中のドルによって担保されているのです。
■ IMFは人民元をSDRの構成通貨に入れる方向で動き出した ■
人民元の国際化は中国の悲願です。その方法の一つがIMFの「特別引出権(SDR)」の構成通貨に元を採用させる事でした。
SDRはドル(41.9%)、ユーロ(37.4%)、ポンド(11.3%)、円(9.4%)という4か国の通貨で構成されています。構成比率は5年毎に見直され、その時点での為替レートによって決まります。
SDRは現在の通貨体制を補完するものとして1969年に創設されます。
1) IMF加は加盟国にSDRを分配する
2) IMF加盟国はSDR入手に際してはコストが発生しない
3) SDRは任意に自由利用可能通貨(SDR構成通貨?)に交換出来る。
4) SDR利用に際して「手数料」が発生し、これが金利に相当する。
5) SDRを使用しなければ「手数料」は発生しないので金利と相殺される。
6) IMFの指定する強固な対外ポジションの国が、弱いポジションの国からSDRを購入出来る(弱いポジションの国の通貨の信用をヘッジする手段?)
この様に、SDR自体は通貨では有りませんが、SDRを通過に変える事が出来るので通貨に準じる物と言えます。SDRの最大の特徴は、IMF加盟国に「無償で配られる」事にあります。まさに無から有を生み出す様なマジックですが、その信用はSDRの構成通貨の信用によって支えられています。SDRのレートはIMFに加盟する主だった16か国の為替レートの平均によって算出される様です。
・・・はっきり言って良く分からない代物ですが、リーマンショック後の2009年にIMFは加盟各国に合計1,826億SDRを分配して、低下していたドルの流動性を補完しました。
SDRの構成通貨に成るという事は、IMFがその通貨を「国際的に信用のある通貨」と認める事に他なりません。
■ 人民元は現状ではSDRの構成通貨(国際通貨)の要件を満たしていない ■
IMFがSDRの構成通貨(国際通貨)と認める条件は二つあります。
1) 国際的な貿易決済で使用されている
2) 自由な為替取引が保障されている
人民元に関しては、既に中国と関係の深い国との決済に利用されていますので1)の条件は満たしています。
一方、人民元の為替レートは中国政府によってドルにソフトペッグされていますから、自由な為替取引は保障されていません。現状では人民元はSDRの構成通貨としては不完全な通貨です。
■ SDRを餌に人民元の自由化を実行させるのでは? ■
あまりにも拙速な感が否めない今回のIMFの動向ですが、SDRの構成通貨となった場合、中国も人民元の自由化を進める義務が生じるでしょう。
では、中国が人民元の自由化をした場合にはどうなるのか・・・・。
中国政府は8月に元の切り下げを行って世界に衝撃を与えました。これは減り始めた輸出をサポートする目的が有ったと思われます。
中国が輸出を拡大し始めたクリントン政権時代には、アメリカは中国に盛んに元の切り上げを要求していました。仕方無く中国は徐々に元を切り上げて行きました。
世界の投資家達の認識は「元は将来的にさらに切り上がる」という物だったはずです。「中国に今投資すれば将来的に元の値上がりによって利益が拡大する」というのが、投資家達の目論みでした。
そこにいきなり中国が「元を切り下げ」たので、さあ大変!!投資家達は中国から投資を引き揚げ始めます。それが顕著な危機となったのが、夏の上海株の暴落です。さすがに中国政府のヤバイと気づいたのか、元のさらなる切り下げはひかえています。
■ 「中国版プラザ合意」を画策する金融資本家 ■
では、仮に人民元がSDRの構成通貨になり、中国政府が為替操作を自重した場合はどうなるでしょうか・・・。
多分、「中国版プラザ合意」の様な状況が生まれるのでは無いか・・・。金融資本家達は中国元を一気に高騰させるのでは無いか。中国の輸出産業は打撃を受けますが、一気に中国人の購買力は一気に膨れ上がります。
現在、世界で不足しているのは「需要」です。中国人は現在でも旺盛な需要を生み出していますが、人民元が切り上がれば、世界中から物やサービスを購入し、さらに世界各国に投資を始めるでしょう。
そもそも金融資本家達の悩みは、なかなか中国の内需が拡大しない事だったはずで、その原因は「元安」にあったはずです。
■ 当然、中国は最期の大バブルを膨らめた後に大崩壊する ■
現在、中国の経済はバブル崩壊の危機に瀕しています。しかし、人民元の価値が一気に拡大すれば、中国国内で最期のバブルが花開く可能性は低くありません。
これは共産党政権にとっても、投資家達にとっても美味しい話です。
しかし・・・日本のバブル同様に、その後に待ち構えているのは大バブルの崩壊でしょう。
■ 大バブル崩壊によって共産党政権も崩壊するのか? ■
ここからは2通りの未来に分かれます。
1) バブル崩壊で共産党政権が倒れ、中国が金融資本家達の手中に落ちる(日本型)
2) 共産党政権が崩壊を阻止する為に対外的戦争を選択する(第二次世界大戦型)
金融資本家達にとっては1)が望ましく、戦争屋にとっては2)が望ましい。
はたして世界はどちらを選択するのか・・・?これこそ神のみぞ知る事ですが、神とは世界の経営者。
■ FRBの利上げの後押しも密約も有るのでは? ■
リーマンショック後の緩和的金融政策は、市場の歪を拡大したので、世界経済はFRBの利上げに耐えられないでしょう。一番の問題は、米国債の金利コントロールにあると思われます。利上げに市場が過剰に反応すると、米国債の金利がポンと跳ね上がり、世界はパニックに陥るはずです。
アメリカは南沙諸島問題で中国に圧力を掛けていますが、一方でイギリスやIMFは中国に飴を送っています。これは、中国に選択を迫っている様に見えます。
多分、中国は飴を受け取る代わりに、「米国債の買い支え」という約束をする事になるでしょう。人民元が切り上がれば、米国債の購入余力も増します。
日本はプラザ合意後に円高が進行し過ぎたとして、小泉政権下に40兆円にも及ぶ為替介入を実行してドル(米国債)を40兆円分も買うはめにうなりました。多分、中国も似た状況になり、結果的に米国債を将来的には買わされるのでしょう。
尤もそれは将来の話であって、直近は「手持ち米国債を売らずに買い増す」程度の密約なのかも知れません。中国は8月来、米国債を売却していると見られていましたが、実は米国債の保有額は減らしていません。ここら辺が「黒田バズーガー3」不発の原因だと私は妄想しています。