人力でGO

経済の最新情勢から、世界の裏側、そして大人の為のアニメ紹介まで、体当たりで挑むエンタテーメント・ブログ。

過剰な金融緩和は脆いダム・・・・・崩壊の威力を増すだけ

2016-01-14 03:55:00 | 時事/金融危機
 

■ 出口戦略は難しい ■

FRBはじっくりと時間を掛けて「市場と対話」し、昨年12月に金利を0.25%引き上げる事を決定しました。2015年の一年間で、市場は過剰なリスクを整理し、金利上昇リスクを十分に織り込んだはずでした。

ところが、昨年末から原油市場、ジャンク債市場が混乱し始め、そして今年に入ってからは株式市場が大混乱しています。

リーマンショック以降の金融緩和相場が完全に崩れ、各市場は「適正な価格」に向けて縮小してゆきますが、その過程でヘッジファンドなどが相場を揺さぶるので「オーバーシュート」が度々発生します。

通常の好景気によって生まれたリスクならば多少の下落はあったとしても市場機能を損なう様な「崩壊」に至る事は有りません。市場は適正価格を自分で見つける事が出来るからです。

しかし、極端な金融緩和によって生まれた「バブル」は、時として市場機能を崩壊させる「暴落」を発生させます。

バブルを発生させない為には極端な金融緩和の継続期間は出来るだけ短い方が好ましく、FRBが利上げをする理由も、市場のバブル化を防ぐ事にあります。しかし、ジム・ロジャースなどが昨年から指摘する様に、FRBの利上げは明らかに遅すぎます。

■ 意図的にバブルを膨らめたFRB? ■

今の状況は2006年当時のアメリカに似ているのかも知れません。FRBはITバブルの崩壊による不景気を克服する為に低金利政策に転じます。2003年6月から2004年5月までは1%という低い政策金利を維持します。それが住宅バブルを生み出します。大量に生成された住宅担保証券(MBS)は、様々な金融商品に加工されこちらでもバブルを生み出しました。

FRBは2004年6月に0.25%金利を引き上げ、その後は1か月毎に0.25%ずつ金利を引き上げます。しかし、アメリカは空前の好景気に湧いており、「借金しても投資すれば儲かる」状況がしばらく続きます。

この動きが大きく変わったのは2006年3月に日銀が量的緩和を解除した頃からです。円キャリートレードによって大量に供給されていた投資資金の金利が上昇したのです。この頃、FRBの金利は5%台でした。

リーマンショックの犯人捜しで「グリーンスパンとFRBがバブルを放置した」と言われますが、実は隠れた犯人は日銀だったのかも知れません。

■ リーマンショック前の水準に戻る事が実はバブルだった ■

リーマンショックによってMBSを始めとする債権市場や、それを担保していたCDS、さらにはそこから派生した様々な金融商品の市場が一気に破綻します。

FRB、日銀、ECBを始めとする中央銀行は狂った様な資金供給で市場の崩壊を支えました。これはリーマンショックによって決壊したダムを応急処置で補修する行為に似ています。

紙屑同然となった債権を中央銀行が買い入れ、市場に資金を供給する事で債権価格も徐々に元の水準に戻ってゆきました。一時は下落した原油価格も30ドルで底を打ち再び100ドル台に戻ります。株式市場も暴落した後に徐々に値を戻しダウなどは史上最高値に達しました。デリバティブの残高も早々にリーマンショック以前の水準を超えています。

この様に2012年頃を境に世界はリーマンショック以前の水準に徐々に戻って行きました。しかし・・・金融市場や原油を始めとする現物市場は、「リーマンショック以前の水準=バブル」でしたから、「現在の市場の水準=バブル」と考える事も出来ます。

アメリカの実体経済だけを見ると「まだまだリーマンショック前の好景気には程遠い」となるのですが、世界の市場は完全にバブル状態に達していたのです。

■ 見えないバブル ■

市場価格が回復してきた2013年頃から「市場水準はバブルなのか?」という問いはされていました。しかし、多くの投資家達はリーマンショック前と比較して、「過剰なレバレッジを掛けていない」とか、平成バブルと比較して「株価収益率は十分に低い」と主張していました。

しかし、バブルは見えない所で発生していました。それは新興国です。数年前にシンガポールやマレーシアに行った時には「完全にバブルの匂い」が漂っていました。日本でかつて感じた事のある懐かしい匂いです。

先進国の金融緩和で供給された資金は、金利につられて新興国で大きなバブルを生み出していたのです。その最たるものが中国です。中国はリーマンショック後の世界を一身に支えていましたが、相当無理をしています。しかし世界の資金はリターンを求めて中国投資に集中しました。金の湧き出る泉の様になった中国からチャイナマネーがアジアの新興国へと溢れ出て行きました。

FRBはアメリカの雇用水準を指標に出口の時期を探っていましたが、この間に新興国や産油国では完全にバブルが膨らんでいたのです。

日本などでも好景気に湧く新興国への投資が盛んになります。ブラジルのレアル建ての金融商品など相当怪しいけれど金利の良い商品が沢山売られ、老人に限らず若い人達も金利に釣られてこれらの商品を購入しています。

■ バブルの出資者は先進国だった ■

2013年6月にバーナンキがテーパリングを匂わせた事で新興国市場は動揺します。「バーナンキショック」です。

既にこの頃には新興国や資源国は十分にバブル状態だった訳です。ただ、テーパリング後もFRBは0.25%の金利を維持していましたから市場の動揺はしばらくすると落着きます。

この動きを見ても、新興国バブルを生み出していたのがアメリカを始めとする先進国の投資であった事が分かります。私達は「新興国の混乱」を対岸の火事の様に眺めていますが、燃えて無くなっているのは私達の投資マネーだったのです。

「いやいや、俺は新興国投資なんてやっていない」という方がほとんどでしょうが、日本のメガバンクは近年、新興国投資額を大幅に増やしています。私達の預金は銀行を通して新興国に投資されているのです。

キリンビールはブラジルのビール事業で失敗して巨額の損失を計上しています。大手商社も海外の資源開発で莫大な損失を被りつつあります。ソフトバンクは国内の通信事業で私達から巻き上げた資金をインドに投資しています。

さらには、日本国内からアメリカに投資された資金は、金利につられて新興国に再投資されています。

■ 投資先が増える事でリスクが拡散してしまった ■

かつてのバブルはある限られた市場で需給バランスが極端に崩れる事で発生しました。チューリップバブルや鉄観音茶のバブルなどが良い例でしょう。この様な現物投資で生まれるバブルは「生産量の拡大」や「ブームの終焉」によって崩壊します。

日本の土地バブルや株式バブルも似た様な構造を持っていました。土地は限られていますし、当時は株の持ち合いの時代だったので株の流通量が少なく、少しの資金流入でも株価は大きく跳ね上がりました。(株価収益率が20倍、40倍となったのはこの為で、これを基準に現在の株価を眺めると火傷します)

一方、現在は金融市場が発展したので極端なバブルは生まれ難い状況です。逆に言えば金利が低く抑えられている訳で、ジャンク債ですら金利が5%を切っていました。

これは良く言えば「リスクの分散」ですが、悪く言えば「リスクの拡散」です。

リーマンショックを生み出した原因となった「大数の原理」は、「多くの債権を一つにまとめる事でリスクを低減する」ものでしたがリーマンショックで見事に破綻します。パニック状態になった時のリスクを回避する事は不可能だったのです。

現在、似た様な投資はETF「Exchange Traded Funds」でしょう。日経平均株価など相場全体に連動する事で、個別銘柄の値動きのリスクを回避できると錯覚しがちなETFですが、市場全体が崩壊する時にはリスクを避ける事が出来ません。

この様に、現在の投資は広く、浅くリスクを拡散させる事で、個別リスクを回避している様に見えますが、実は至る所にリスクが拡散している状況とも言えます。

■ 一部の市場の極端な崩壊では無く、全ての市場がジリジリと縮小する ■

リーマンショック以降、リスクは広く浅く分散しましたが、この様な市場の崩壊は「暴落」の様な分かり易い物では無く、潮が引く様にダラダラと市場価格が下落する形を取ると思われます。

株式市場なども最近の混乱が治まれば、2歩進んで3歩下がる様な状況が進むのでは無いかと思います。こんな状態が夏頃まで続くのでは無いでしょうか。

ふと気付いた時には「利益を全部吐き出していた」・・・・そんな状況で一般人も「損切」を始めた時、市場は最後の崩壊を迎えるのだと思います。当然、金融資本家達の資金はとっくに引き上げられた後です。

■ 一般人の資金が市場に集まり始めた時には投資家は逃げる準備を始めている ■

先日、友人のアメリカ人と話ていたら彼はしきりに米株のETFを褒めていました。これは世界大恐慌の前に靴磨きの少年が株の話をした逸話に似ています。一般人が「この投資は儲かる」と話す時には、その市場は既に草刈場と化しているのです。

日本株の場合は少々特殊で、一般人があまりにも食付かないので、公的資金が身代わりになっています。私達の年金積立金(GPIF)や、ゆうちょ銀行の資金が、株やはジャンク債市場で餌食になりつつあります。

■ ソフトランディングは可能か? ■

リーマンショック後の過剰な金融緩和は脆いダムと言えるでしょう。

ちょろちょろと水が漏れだして次第に水位が下がれば「ソフトランディング」になります。

しかし、ダムの決壊というのは小さな亀裂から水が沁み出す事から始まり、それが徐々に拡大して崩壊するという形を取る事が多い。金融市場や株式市場の「パニック売り」がこれに相当します。

はたして、FRBはソフトランディングに成功するのか・・・・。私は既に2013年末には危険水位を超えてしまったと思うのですが・・・。


尤も陰謀論者の私はFRBは確信犯だと思っています。バブルは成長力の低下した経済を無理やり成長させる為の道具であり、今回の成長は新興国で達成さたのでしょう。