本日はネタバレ満載です。お気をつけて。
『サクラクエスト』より
■ 富山に根を下したP.A.WORKS が問う「地域振興」の現実 ■
かつてTVドラマが社会の鏡だった様に、成熟した表現分野となったアニメーションも、近年社会性を持つ作品が多く作られる様になりました。
富山に本社を構えるアニメプロダクションのPA.WORKSは、地方を舞台にした良質な作品を多く生み出して来ました。
そんなP.A.WORKSがライフワークとして発表している「働く女の子シリーズ」の最新作が現在放映されている『サクラクエスト』。
短大卒業を控えた木春 由乃(こはる よしの)は就職活動にことごとく失敗、「お祈りメール」が届く毎日。そんな彼女の元にモデルの紹介事務所から仕事の依頼が入ります。なんと「国王」になって欲しいという。いわゆる「一日国王」だと思い小遣い稼ぎに引き受けた由乃でしたが、なんと依頼は人違いだった。
間野山(まのやま)観光協会が依頼した相手は「椿由乃」という昔のアイドル。観光協会の会長がその昔ファンだったのです。木春と椿の間違いで、一日国王を引き受ける羽目になった彼女は、無難に国王役をこなし、東京へ戻ろうとしますが・・・依頼は1年の契約だった!!
そんなこんなで、「チュパカブラ王国」の国王として地域振興に奔走する女の子たちの物語が始まります。
■ 典型的な地方都市の問題点を丁寧に描いている ■
間野山は昔は門前町として栄えていた様ですが、現在は産業の主体が農業の、ごくごくありふれた地方都市。商店街の活気は失われシャッターを閉じている店も多い。
「チュパカブラ王国」は昭和のミニ独立国ブームで「カブラ王国」として建設されますが、さびれて観光客も来ない。破天荒な観光協会の会長が昔目撃した「チュパカブラ」(吸血の未確認生物)にちなんで「チュパカブラ王国」として再出発するも、全くの不人気。そんなどうし様も無いミニ独立国と間野山に観光客を集めるのが、国王の仕事。
由乃は行動力は在りますが、思慮の浅い勢いだけの女の子。だけど彼女に影響を受けて地元の女の子達が王国復興に集まり始めます。観光協会の事務員、地元出身の元劇団女優、東京の生活に疲れ間野山に移り住んだIT技術者、商工会長の孫娘。この5人が知恵を出し合いながら、観光協会のイベントを盛り上げようと奮闘します。
地域のユルキャラコンテストに出演したり、青年会の婚活ツアーをプロデュースしたり、映画のロケを誘致したり・・・しかし効果はパットしません。唯一、地方TVの人気デキュメンタリー番組に出演した時はTV局が手配した人気ロックバンド目当てに観光客が集まりますが・・・それも一過性の盛り上がりで終わります。
アニメではありますが、実はこれ現実の地域振興の姿そのものなのです。
1) 代わり映えのしないユルキャラ
2) 特産品をテーマにした観光客ニーズの無い観光施設
3) 観光協会の予算を消化するだけの代わり映えのしないイベント
彼女達の奮闘とは裏腹に、街の人達は冷めた目でそれを眺めています。それでも由乃は持ち前の行動力で愚直に街の人達の心を少しずつ動かして行きます。観光協会の会長はこう言います。「街を変えるのは、若者・バカ者・他所者だ」と・・・。会長はかつてはバカな若者でしたが・・・他所者では無かった。
由乃は失敗を繰り返しながらも、少しずつ間野山を理解し、そして他所者ならではの視点で間野山の良さを見つけ様とします。
■ 問題を明確化しても解決策を提示出来ないもどかしさ ■
この作品、さすがに地方に定着したアニメ会社の作品だけに、地方の問題点の描き方にリアリティがあります。容易には問題が解決しないし、由乃のアイデアは実はかつて会長が試した様々な事の二番煎じだったりします。
現実の地域振興においても同じ様な事が繰り替えされています。
1) 成功した地域に視察に繰り出す
2) 代理店が似たような企画を作る
3) 補助金を申請して事業化する
4) 全国に似たような施設やイベントが乱立して失敗に終わる
アニメの美少女キャラだから視聴者は由乃の奮闘にエールを送りますが、これが観光協会の男性職員の話ならば・・・ニコ動の字幕は罵倒の嵐となるでしょう。
■ 老人とIT ■
2期連続でじっくりと描かれる作品ですが、17話、18話は見ごたえがあります。間野山の限界集落で路線バスの廃止が決定します。住人達は生活の足を奪われるので反対しますが、バス会社は収益性の悪い路線を継続する事は出来ません。
その集落に住む元大学教授の老人は由乃達にどうしたらバスの廃止を止められるかという質問をします。
「限界集落を維持するのは難しいので、街の近くに移住してコンパクトなコミュニテーを形成したらどうか」と答えたit技術者に教授はこう答えます。
「我々は十分に働き税金を納めて来た。それなのに何故生まれ育った地を離れなければならないのか?」
このジレンマは全国の限界集落が抱える問題です。住民の権利と行政コストは常に相反します。「コンパクトシティー」や「コンパクトコミュニテテー」という方法は教科書的には正しい選択ですが、そこに住む人々の生活や気持ちは無視しています。
そんな限界集落に街はタブレット端末を配布しています。「色々と便利」という触れ込みですが、老人達の活用法は懐中電灯代わりであたり、カップラーメンの重しとタイマーだったり・・・。それを見てIT技術者は自分の分野で彼らに貢献できないかと思案します。
そして彼女は老人達の井戸端会議の場所ネットに構築します。面白い事に、元々のコミュニケーションが緊密な老人達は、新しいツールの虜になり、操作も楽しみながらどんどん覚えて行きます。様々な映像がアップされ、様々な会話が交わされます。
・・・実は元教授の目的はバス路線の存続でも、限界集落の維持でもありませんでした。彼はこの集落がいずれは無くなる事に自覚的です。その上で、いずれは消えてしまうであろう、彼らの暮らしやコミュニケーションの一旦をデジタルアーカイブとして保存しようとしたのです。その為に由乃達を焚きつけた・・・。
ネットを通じて生き生きとした老人達の姿が間野山中に流れ、そして人々の心を少しずつ動かします。バス会社は試験的にデマンド・バスの運行を始めます。オペレーションの人件費が掛かるので却下された試みですが、王国のIT大臣がタブレットで簡単にバスを呼べるシステムを作ったのです。
これも様々な地域で試みられている地域交通の維持手法だと思いますが、こんな地味なテーマをエンタテーメントに昇華するP.A.WORKSの手腕には感嘆してしまいます。
脚本は横谷昌宏と入江信吾という方が担当していますが、上記の17話、18話は入江信吾さんが担当しています。この方、TVドラマの脚本も多く手掛けている様で、『サクラクエスト』は実は実写ドラマで放映しても大人の視聴に耐える作品です。
ただ、この内容をTVドラマで放映しても視聴率は取れませんから・・・。視聴率に縛られるTVドラマを後目に、アニメはこんな社会性の有る作品の受け皿になり始めているのです。
アニメならではの「キャラ萌え」と「リズム感のある演出」によって、難しいテーマーや社会性の強いテーマも十分にエンタテーメントとして成り立ち、成熟した視聴者はそれを面白いと受け入れる。
ベタな恋愛物や、不倫物でしか視聴率が取れない実写ドラマは何れアニメの淘汰されるのかも知れません。その前触れとして、優秀なドラマの脚本家達がアニメの脚本を書く様になっているのかも・・・。表現方法が違うので、ドラマの脚本の手法はそのままは使えませんが、アニメの脚本化とは違うリアリティーの演出の仕方など、様々な人材を取り込んでアニメは日々進化し続けるのでしょう。
■ 街を活気付かせるのは「バカ者」だ!!。女子高生達は間野山を越えるのか?! ■
『アクションヒロイン チアフルーツ』より
今期、私が一番期待している作品は『アクションヒロイン チアフルーツ』です。
『アクションヒロイン チアフルーツ』・・・千葉県大多喜町 聖地巡礼 「人力でGO」
こちらも図らずも地域振興のお話。
全国で「ご当地ヒロイン」の大ブームが起こり、政府も地域振興の一環として特例法を設ける程の盛り上がり。
しかし万葉県(まんようけん)の陽菜野市(ひなのし)はこの流れから取り残された、何の変哲も無い地方都市。(実は聖地は千葉県の大多喜町。江戸時代の城下町の風情を残す観光地です)
生徒会長の城ヶ根 御前(しろがね みさき)の祖父はかつて町長だった。しかし、彼が残したホールは1/3も客席が埋まる事無く、負の遺産として取り壊される運命に。
御前は祖父の愛した陽菜野とホールを守りたい。そんな折、叔母が「ホールを一杯に出来たら存続できるかも知れないと」と高校生の彼女をけしかける。「わが県は日本で唯一人気ご当時ヒロイン不在県。陽菜野に人気ヒロインを作れ」と!!
一方、ヒロインを愛して止まない赤来 杏(あかぎ あん)は、ひょんな切っ掛けで同級生の黄瀬 美甘(きせ みかん)と二人で、子供達の前で全国NO.1の人気ご当時ヒロイン『カミダイオー』のショーを再現する事に。元々運動神経抜群の杏は、美甘を猛特訓します。結果は子供達に大うけ。しかし、ショーのラストでイベント用の物見櫓を倒壊させてしまいます・・・。
その様子をひそかに撮影してネットに流した者が居ます。ネットでも話題になりますが、当人達は退学になるとビクビクしています。そんな彼女達に生徒会長から及びが掛かります。覚悟を決めた二人に生徒会長はこう告げます。
「あなたたち、 陽菜野のヒロインに成りなさい!!」
実はネットに映像を流出させたのは生徒会長。彼女は陽菜野をご当時ヒロインで有名にする計画に着手したのです。
まあ、大人からすればバカバカしい内容かも知れませんが、長年アニメを見続けた50代の私にとては「神アニメ」。昔の特撮へのオマージュや、最近の作品のパロディーなど突っ込み所も満載ですが、とにかく話のテンポが良い。
導入、複線の回収などスムースで、まさに脚本の教科書。さすがは長年戦隊物を手掛けている荒川稔久。
■ 目だった方が目立たないより良い「炎上商法」 ■
2話目からはメンバー集めが始まります。学校の掲示板に張った募集に応じたのは、音響や仕掛けに詳しい子と、お寺の娘ながら筋金入りのコスプレーヤーの子。彼女は寺の本堂を練習と講演の場に提供してくれるという。但し、場所代はしっかり取ります。檀家が減ってお寺の経営は相当に厳しいらしい。(さらりと地方の問題の一つを入れる辺り、さすがです。)
ヒロインショーの準備で盛り上がる生徒会長達ですが、それを遠くで見つめる生徒が居ます。生徒会長を過剰に信望する副会長です。
彼女の父は駅員で彼女の部屋は駅構内の列車の車両。これ、国鉄時代の名ディーゼル車の「キハ」です。千葉県内では大多喜を走る「いすみ鉄道」と「小湊鉄道」で現役で走っていますが、鉄道マニアには垂涎もの。会長を取られて紋々とする副会長ですが・・・なんと部屋で「カミダイオーショー」おビデオを見ながら練習を始めます。いつでも仲間に入る気満々じゃないですか!!
派手なアクションで全身痣だらけの美甘に変わり、敵役に抜擢された副会長は、堂々たる敵ぶりを見せ、お寺の本堂は観客で大盛況。しっかり入場料を取って、グッズの売り上げも順調。
ネットに流された映像には「偽物」と非難が殺到しますが、会長はこれも宣伝の内と「炎上商法」と捉えている様です。なかなかやり手です。
ところが、あまりに度が過ぎて本家の「カミダイオー」からクレームが付いた。本来なら訴訟問題だが高校生だから大目に見る・・・と。
■ マーケット戦略 ■
元々オリジナルヒロインを目指していたので、彼女達は新たな陽菜野市のご当地ヒロインを作る為にアイデアを絞ります。「光と闇の闘い」なんてどっかで見た様なアイデアしか浮かばない中で、美甘が提案したのは陽菜野市の特産のフルーツにちなんだヒロイン。
そしてチーム名も「チアフルーツ」と決定します。フルーツで応援するという意味ですが、元気が良いというチアフルにも掛けてあります。実は「命名」ってとても重要です。これによってプロジェクトの方向性が定まりますし、士気も上がります。
この会議のシーン、会長の進行の優秀さが際立ちます。自ら率先してアイデアを提示し、問題が有ると指摘されて速やかに自らの案を取り下げています。会議の形を取って自らのアイデアの責任を部下と分散する世の大人にツメの垢を飲ませたい。さらに、発表できずにモジモジしている美甘の挙動に目を配り、発表される事の無かったかも知れない彼女のアイデアを掬い上げています。決定のプロセスも早い。これ、大人でも参考になるシーンです。
■ 挑戦と修正 ■
こうして挑んだ新たなヒロインショーは子供達には受けますが・・・何かインパクトが足りない。
彼女達は「歌」をショーに取り入れる事にします。そして新なメンバーとして白羽の矢を立てたのは、東京でもアイドル活動を休止して地元に戻って来た子・・・。現時点では話はここまでですが・・・女子高生なりのマーケット戦略が面白い。
いえ、むしろ補助金で運営される企画会社のプロジェクトなんかよりも注目を集めそうです。
1) 女子高生のご当地ヒロインユニット
2) 本家カミダイオーに訴えられそうになったという話題性
3) 元アイドルがご当地アイドルとして再出発という話題性
この後、まだ色々と予想の斜め上を行く展開になりそうですが、この作品自体がかなり「炎上商法」的なゲリラ作品で面白い。
■ ヒットは思わぬ所から生まれるのかも知れません ■
全国の多くの地方が、地域振興に鎬を削る昨今、似たような企画が乱立して、そこに無駄に補助金が垂れ流されてゆきます。
企画会社がデザインして、アルバイトに着せるだけのゆるキャラ。その製作費は平均で50万円以上。高いものは130万円。
年間契約で100万円を請求しながら、稼働日数が19日なんてゆるキャラも居る様で、まさに税金や補助金をドブに捨てています。
そんなゆるキャラのアンチテーゼとして登場したのが「ふなっしー」では無いでしょうか?アルバイトという性質上「しゃべれない」というゆるキャラの特性をぶっ壊して過激トークを連発し、さらにはユックリとしか動かないゆるキャラのイメージを覆す動きをして見せた。
個人が勝手にに着ぐるみを作って、勝手に地元イベントに乱入した「ふなっしー」ですが、大手代理店のキャラクター達を駆逐して、紅白にまで出演してヒンシュクを買う始末。これでは大手代理店は形無しです。
結局、有名大学を卒業して代理店に入社する様な人のアイデアは予想の範疇でしか無く、人々が求めているのは「予想の斜め上を行く」企画です。
今の所、装うの斜め上を軽やかに超えている「チアフルーツ」が陽菜野市や大多喜町を救うのか・・・ワクワクが止まりません。
<追記>
グッチーさんのブログからお越しの皆さま・・・申し訳ありません。加計問題を取り上げようと思ったのですが、オタクの血がアニメ記事を書かずにはいられませんでした・・・。
<追記2>
『チアフルーツ』なんてとれも見れないよ・・・と思われる方たちも多いと思いますが、実は千葉県大多喜町は全共闘世代にも縁がある場所。
不条理漫画で一世を風靡した「つけ義春」が滞在した寿恵比楼は大多喜にあります。ここでの経験から「紅い花」(1967年10月)「西部田村事件」(1967年12月)などが生まれています。
私も知らずに訪れたのですが、バスのターミナルの横に確かに寿恵比楼(営業していませんが)の様な建物が建っていました。知っていれば写真を取ったのですが・・・。
千葉はつげ義春の作品の舞台が多く、「ねじ式」は安房鴨川の次の駅の小さな漁港の集落の「太海」が舞台ですね。私、「太海」大好きな所で良くいきます。画家の宿の「江澤館」と、源頼朝が地元豪族にプレゼントした「仁右衛門島」がおススメ。
つげ義春のファンは現在シルバー世代になられているでしょうから、バスツアーでも企画したら応募する方も多いのでは。シルバー世代の聖地巡礼ツアーって地域振興にどうだろう?