■ 聖地巡礼の意味 ■
何故50歳を過ぎた様なオヤジがアニメの聖地巡礼をするのだろうか。
聖地巡礼とはアニメという「絵に描いた世界」の儚さを補完して、キャラクターに実在の人間の体温を宿す儀式だと私は考えます。
登場人物たちは、どんな街に住んで、どんな空気を吸い、どんな風景を見て、そしてどんな生活をしているのか・・・。全くの架空のキャラクタ―達ではありますが、制作スタッフが彼らを生み出した背景に触れる事によって、私達はバーチャルな作品世界をリアルへと手繰り寄せるのです。
これはディズニーなどのテーマパーク・ビジネスの本質に近く、架空の物語だけで構成された世界の「圧倒的な排他性」によって、バーチャルをリアルにすり替える魔法なのです。
昨今の実在する街や風景を背景にしたアニメの登場は、街をテーマパーク化する事で、私達を夢の国へ誘う装置とも言えます。
そして、その装置は「普通の街」であればある程、効果的の作用します。登場人物たちの歩いた道を歩き、同じ電車やバスに乗り、同じコンビニでオニギリを買う。この行為こそが物語との同化の儀式なのです。
そして、今回紹介す『Just Because!』は、「同化の儀式」に最も適した作品の一つです。
どこにでも在りそうな街ですが、唯一無二の情報を宿した街。これは有りそうで無い街。
だから、整地巡礼マニアを引き付ける。
ここから本編
■ 私気になります・・・ ■
今期、家内と二人で楽しんでいるアニメ『Juset Becasse!』。
Line時代の群像劇・・・『Just Because!』は傑作だ 人力でGO 2017.11.28
その中で私、どうしても気になる事があるんです。
『Juset Because!』より
度々作中に出てくる湘南モノレールのホームにある長い箱の様な物体。これ何なのでしょうか?ホームの先端にある様に見えるのですが、こんな物があったら躓いて危ないのでは無いか・・・。気になりだしたら作品に集中出来なくなりました。小宮さんが瑛太先輩にコクっているのに、私の頭の中は「謎の箱」の事でイッパイ。
こんな事では最終話を思い切り堪能出来ません。そこで、自転車に乗って確認に行く事に。前の記事にも書いた通り、ほぼ二か月ぶり、肉離れのリハビリを兼ねたプチロングライドですが、まあ、自転車が進まない事と言ったら・・・。
そんなこんなで、大船までようやくたどり着き、そこで自転車を一旦袋に詰めて、湘南モノレールに乗ります。以前一度乗った事がありますが、グラグラ揺れて、遊園地のアトラクションの様なスリルが味わえる乗り物という記憶が・・・。
大船駅のホームに停車する車両ですが、軌道は一本のみです。大船で車両は折り返します。
■ 懸垂式モノレールが主役級の活躍!? ■
モノレールが登場するアニメ作品で思い浮かぶのは『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』と『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている』。両作品とも「千葉都市モノレール」が登場します。これ、千葉市内が作品の舞台というだけですが、懸垂式のモノレールが中空を走る画はインパクトが有ります。
千葉都市モノレールも作品とのタイアップにノリノリで、両作品ともラッピング車両を運行させていました。
写真はネットより
写真はネットより
ただ、作中でモノレールが効果的に使われていたかと言えば・・・ただ背景であったり、移動の手段として車内の様子が描かれたりする程度。特にモノレールが印象に残るシーンは有りません。
一方、『Just Because!』ではモノレールは物語の中心的な存在です。
第一話、父親の転勤先の福岡から瑛太が母親とモノレールに乗って街に戻って来ます。をれを父親が湘南深沢駅で待ち受けます。
実はこの一帯は三菱電機の鎌倉工場に勤める社員が多く住んでいます。父親ももしかすると三菱系列の会社員では無いか。そんな妄想が膨らむ冒頭のシーンです。
実は湘南モノレールを建設したのは三菱重工です。大船から江の島を結ぶ路線ではありますが、現在の利用客の多くが通勤通学客で9割が占められます。朝夕がラッシュで込み合うので、日本の懸垂式モノレールとしては唯一、3両編成で運行されています。バスよりは輸送力があり、信号などに引っかかる事も無いので、実用的な移動手段として利用者が多いのです。
そんな地域の住人の生活に溶け込んだモノレールを描く事で、この作品は普通でありながら普通で無い、ある種の「象徴=アイコン」を作り出す事に成功しています。物語はモノレールから始まり、ホームや駅の階段も重要なシーンに登場します。
9話では瑛太と道で鉢合わせした夏目が、普段ならバスで藤沢に出る所を、一緒にモノレールの駅までやって来ます。ホームで待つ間、夏目は瑛太が小宮とデートするのでは無いかと疑います。
「小宮さんとデート?」
「デートって何?」
「仲のいい男女が約束して会うこと。逢引とも言う」
「それは昨日聞いた・・・」
「小宮さんとか?」
こんなトゲトゲしいやり取りがホームのベンチで交わされます。
一方、10話では、バレンタインの夜に瑛太は小宮に駅に呼び出されます。ホームで会った瑛太にバレンタインのチロルチョコと沢山の受験のお守りと渡した小宮は、思わず「私、瑛太先輩の事が好き」と口にします。
このシーンの間、「ゴン、ゴン、ゴン」という音が背後でしています。これ、モノレールの軌道のポイント切り替えの音ですが、モノレールを生活の足として使っている彼らにとって、湘南深沢駅の「ゴン、ゴン、ゴン」という音は駅とセットになった音なのでしょう。
こんな感じで湘南モノレールはこの作品では、主役級の役割を担っています。
下はOP映像の冒頭辺りですが、湘南深沢駅でモノレールがすれ違う様を上手に映像に取り込んでいます。
『Juset Because!』より
ちなみに実際はこんな感じ。スマホなので車両が全部入りませんでした。
■ 四角い箱の正体は・・・ ■
ところで、冒頭にも書いたホーム先端の「謎の箱」の正体は・・・
『Juset Because!』より
実はホーム上に有るのではなく、車両の下の場所に設置されたものでした。何かのガイドでしょうか?
湘南モノレールは10分弱程度の間隔で運行されており、それ程待つ事も無く、ホームですれ違うモノレールを撮影する事が出来ます。
■ 街の風景の一部となっているモノレール ■
駅の改札周辺はこんな感じです。実は湘南深沢駅は無人駅が、車掌が切符を回収します。
『Juset Because!』より
ホームへはこの階段から昇って行きます。
『Juset Because!』より
道路の真上、建物をかすめる様にしてモノレールが行き交います。
『Juset Because!』より
実は駅を降りて直ぐ気付いたのですが、スマホやカメラを持った若い男子が沢山居ます。モノレールを撮影しているのでは無く・・・明らかに聖地巡礼をしています。スマホで写真の構図を確認しては撮影をしています。女性はおらず、単独の男子か、二人から三人連れ。いや、ジワジワとブーム来てますよ。物語も7話目ぐらいからグイグイ盛り上がってますし・・。
実は深沢にはモノレールの本社と車庫が有ります。軌道の検査用車両?も見る事が出来るので、テチャンには楽しい場所かも知れません。しかし、懸垂式のモノレールの箱型軌道ってカッコいいですよね。
■ バスも良く登場する ■
湘南深沢駅を出て、江の島方面に少し歩いた交差点を右折し、瑛太達が通う高校のモデルとなった神奈川県立深沢高校を目指します。
実はこの作品、モノレールの他にバスも良く登場します。モノレール、バス、自転車、そして小宮さんが乗るスクーター。これらは車を運転出来ない高校生の日常の足です。
作中でバスを見た時に「神奈川中央バス」かと思いましたが、「江ノ電バス」が正解でした。夏目さんは、このバスで藤沢の予備校に通ています。
『Juset Because!』より
■ 高校 ■
瑛太達が通う高校のモデルとなった神奈川県立深沢高校へは、深沢支所西の交差点を左に進み、突き当たた大きな道を右折します。駅前の道を直進すると、この道の上を高架で通過してしまいますが、徒歩ならば階段で大きな道に出る事も出来ます。ここ、迷い安いので注意。
高校は駅から1km程歩きます。風が強く、とても寒い日でしたが巡礼者は暖かいコーヒで手を温めながら聖地を目指す方も多かった。
校門は休日なので閉じていましたが、ほぼ作中のまま。
『Juset Because!』より
校門脇のバス停もほぼそのまま。
『Juset Because!』より
■ コンビニが聖地!? ■
この作品、高校生の日常生活を描くだけにコンビニが登場するシーンも多い。特に瑛太と小宮の絡みはコンビニが多い。
登場するのはセブンイレブン常盤店。高校前の道を駅側に戻り、そのまま300m程進と見つかります。
『Juset Because!』より
『Juset Because!』より
■ 陽斗君が森川さんと初詣に行った「白旗神社」 ■
セブンイレブンを撮影した後は藤沢に向かいます。駅前も何回も登場しますが、先ずは陽斗が森川さんと初詣デートした「白旗神社」を目指します。場所は小田急江ノ島線の藤沢本町の駅の近くです。
奥州で斬首された源義経の首が流れ付き、それを供養したと伝わる白旗神社。白旗は源氏の旗印。
社はそれ程大きくはありませんが、そこはかとない風格が漂います。
4話で陽斗君が森川さんと初詣に行ったシーンです。構図がいい加減なのは、寒さが限界に達していた為。速く、暖かいお店に入って、温かなものを食べたかった。
『Juset Because!』より
『Juset Because!』より
『Juset Because!』より
階段を下った先は玉砂利の広いスペースでした。多分、初詣の時には人で埋まるのでしょう。
■ 高校生の普通の生活圏が聖地 ■
最後の聖地は藤沢駅です。夏目が予備校に通う駅、さらには駅前の商業施設のジュンク堂書店やビックカメラを彼らは日常的に利用しています。
この作品、登場する店舗が実際の名前のまま出て来る事が多い。それらの店や湘南モノレールはスポンサーにもなっていて、ビックカメラなどは小宮さんが登場するシーンを特設売り場にする力の入れよう。
小宮さんはキャノンのカメラを使っていますが、キャノンもスポンサーで、カメラの設定など細かなアドバイスもしている様です。結構凝ったプレスリリースをネットで発見しました。
「テレビアニメ「Just Because!」にキヤノンが協力」
こういったタイアップは従来実写ドラマでされる事が多かったのですが、リアルに街の風景を描き込むスタイルのアニメは、先日も書いた通り、既にドラマの代替えのジャンルとして機能し始めています。
実際にこの作品も実写ドラマでも十分成り立つのですが、やはりアニメの方がキャラ立ちが良くイマドキの若者の共感を得やすい。そこにスポンサーである企業は気付き始めています。
『Juset Because!』より
『Juset Because!』の舞台は、湘南深沢周辺に住み、県立深沢高校に通う普通の高校生の生活圏をリアルに反映しています。
どの路線バスに乗るのか、日常の足として利用するのは、モノレールか、バスか、自転車か、スクーターか?どのコンビニを利用して、どの喫茶店に入るのか?
そんな細かな設定の積み上げこそが、登場人物にリアリティーを与え、「普通の高校生達の物語」という作品最大の魅力を生み出しています。
そして、彼らの生活を追体験する事で作品への理解を深めようとする聖地巡礼者の魂を強く揺さぶるのです。
今回は下見程度でしたので、スマホのカメラで適当な構図での撮影でしたが、また機会があればきちんと巡礼に訪れたいと思います。