夢のような2時間だった。この不思議な世界で、主人公の少女とともに、この世界を旅する。実は彼女は神様の娘で、でも、父親である神様は、とんでもない嫌なやつ。自分の部屋に籠って、パソコンの前に座り、人間たちを好き勝手にいじくって遊んでいる。神様のくせに、人間を持て遊んでいるばかり。妻に対しても偉そうで、家政婦以下の扱い。そんな父を嫌って息子のジーザスは人間界に行き、ゴルゴダの丘で死んでしまった。息子の死後、母はふさぎこむ。
神は部屋から出ることなく、つまらなそうに毎日を過ごす。横暴な父親に反発して、兄のように彼女もまた、人間界に行く。洗濯機に入って、その先の、ずっと先に。そこは街角にあるコインランドリー。そこにある自宅と同じような洗濯機に繋がる。父が作ったブリュッセルの街。(神はまずこの世にブリュッセルをお作りなされた!)彼女は6人の使徒と逢う。映画は彼ら孤独な男女と、彼女との交流を描く。ひとつひとつのエピソードがとても素敵だ。ここでもまた思いもしない奇想天外が繰り広げられる。
最初はいたずらメールだった。父親のパソコンから一斉メールを送った。人間たちに自分の余命を伝えたのだ。そのせいで人間世界は混乱の極みに至る。彼女はもう一度世界を救うために6人の使徒たちと出逢い、『新・新約聖書』を作り、最後の奇跡を起こす。
なんだか、どこもかしこも、とんでもなく奇想天外で、でも、胸いっぱいになる映画だ。この世界で生きていたいと思わせる。世界はこんなにも愛おしい。家から出ずに、ずっと小さな世界で引き籠る神様一家が、娘の家出から、怒りに駆られた父の追跡を通して世界とつながる。自分の作ったはずの世界に翻弄される神様の姿が可笑しい。
もちろんラストで「親子の和解」なんていうつまらない結論になんてならないのもいい。バカな神様はバカなまま。娘は母の起こした奇跡を受け止める。この世界はこんなにも美しい。
これはあの傑作『トト・ザ・ヒーロー』『8日目』のベルギーの鬼才 ジャコ・バン・ドルマル監督が贈るハートフル・アドベンチャーなのだ。世界と初めて触れ合う少女と彼女の父親(もちろん、神様)の、このささやかな冒険を堪能する。愛おしすぎる大傑作。