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映画・演劇のレビュー

有吉玉青『カムフラージュ』

2012-03-16 22:34:09 | その他
 久しぶりに有吉玉青の小説を読む。昔『キャベツの新生活』を読み、とても新鮮な感動を受けた。あの本を読んだ時には、あの1冊だけで、彼女にどこまでもついて行こうと思ったくらいだ。それからは新刊が出るのが楽しみだった。なのに、気がついたらもう、すごく長い歳月、彼女の本を読んでいない。なかなか出ない新刊にしびれを切らせて、気づくと疎遠になっていた。

 先日図書館で、ふと、ア行の本棚を目にして、見たことのない彼女の本が並んでいるのを目撃した。その時始めて「あっ、そういえばずっと読んでなかったよ」ということに気付いたのだった。そこでまず、今回は1冊。そこにあった本の中で、一番新しい本を手にした。それがこの本だ。読みながら驚く。とても安っぽくてつまらない。有吉玉青ってこんなヘボ作家だったっけ、と思う。この手の三文恋愛小説に付き合うほど僕は暇ではない、と思いつつも、最後まで読んでしまった。

 7話からなる短編連作。このドラマを彩る7人の主人公たちがそれぞれの想いを語っていく。大学教授と恋に陥る女学生。その教授の美しい妻。彼女の画のモデルをする若い恋人。そして、本人である教授。女学生の恋人。その恋人に横恋慕をする彼の後輩。最後は教授の中2の息子。このパターンが最近多い。この前も同じスタイルの小説を読んだ。(要するに僕が偶然2冊読んだだけかも)

 まぁ、愚かな男女のラブアフェアなのだが、彼女はわざとこういう安っぽい小説を書いているみたいなのだ。俗っぽい小説のスタイルの中で、人の気持ちなんかこんなもの、と見下している。なんかとても傲慢な気もするけど、本当はそうではない。人間の弱さ、脆さをこんなカリカチュアしたキャラクターを通して距離を置いて描くのだ。人間って愚かで、つまんない。えらそうにしていても、ほんのちょっとしたことで、ダメになる。たかが恋愛にうつつを抜かしている彼らの姿を通して、バカだけど、いとおしい人間という生き物の実態を描いている。そんな気もする。確かに悪くはない。だけど、でも、たいしたこともない。



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