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映画・演劇のレビュー

女性芸術劇場『光をあつめて』

2012-03-28 22:12:45 | 演劇
 虚空旅団の高橋恵さんによる台本を、桃園会の深津篤史さんが演出するこの春一番の期待作。女性写真家の山沢栄子さんをモデルにしたオリジナル作品。伝記ではなく、フィクションとすることによって、史実に縛られることなく、自由に山沢さんの生き方を語れたのではないか。彼女の考え方、精神を忠実に救い上げることが、事実と虚構を縦横に駆使することで可能となった。高橋さんは今回も自分の劇団でやっている今のスタイルを踏襲し、彼女にしか出来ないアプローチを展開する。

 何よりも、5台のカメラが語るお話、というアイデアが、すばらしい成果を挙げている。時に串団子式のエピソードの羅列は、その淡々とした語り口と相俟って作品を単調なものする。時系列に並べられたさまざまな人たちとの出会いのドラマは、短編の味わいがあり、おもしろいのだが、そのままでは、どうしてもメリハリのないものに成りかねない。だが、この作品はカメラたちの視点を獲得したことで、そんな単調さから、逃れることになった。

 主人公である祥子(武田暁)という女性の一代記をクローズアップするのではなく、もっと淡い、時代の空気を感じさせるようなもの、としたのは、深津さんの演出の力だ。彼はこの作品に於いてもいつもの桃園会のようにフラットな芝居を目指した。お話を語るのではなく、ある時代を生きた人々の姿を切り取る。主人公の祥子を描くのではなく、ドラマの焦点は、彼女と周囲の人たちとのかかわりあいの中にある。

 日替わりゲストの部分も、取って付けたようにはならずに、とても自然に嵌っていて、感心した。僕が見た回は前尼崎市長、白井文さん。彼女が自分のことを語るシーンがすごくいい。アドリブで、マイクを使うという、作品の流れを壊しかねないこの部分を、こんなにもしっくり挟み込んで、無理がない。

 女性が時代の先端を行くことの困難をこんなにもあっさりしたタッチで描き、感動的に仕立てるって、ちょっとした奇跡だ。先日見た映画『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』もよく出来ていたが、あれはどこまでいってもメリル・ストリープの一人芝居でしかない。だが、この作品は山沢栄子を通して、普遍に迫る。もちろんいろんなアプローチがあっていいし、方向性はそれぞれ違うのだからそこに巧拙をつけても仕方がないのだが、2本連続で見た時、彼我の差に、ちょっと胸をなでおろす。こちらの作品の方が優れていることで、僕が喜ぶのはお門違いだろうけど。

 あえて感動的なドラマに仕立てることなく、さらりとした口当たりで、静かに彼女の生涯を見せていく。ドラマチックには程遠いこの作りが作品を成功に導いた。


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