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映画・演劇のレビュー

『クロール 凶暴領域』

2021-03-12 21:50:19 | 映画

こういうB級パニック映画を見るにはほんとうに久しぶりのことだ。昔は大好きだった、だけど、今ではもうほとんど見なくなった。それに、こういう映画は今の時代、映画館にはなかなか掛からないし。でも、レンタルショップにはある。しかも凄い量で。この手の安い映画は煽情的なパッケージで並んでいる。もちろん、見たいとは思わない。

ホラー映画やパニック映画は昔は映画の花形だった。『エクソシスト』以降A級ホラー映画が映画館のメインストリームを席巻した。70年代の後半のお話だ。そんなご時世の中で、敢えて低予算のB級なのだけど、凄いホラーが大ヒットするという流れが起きた。サム・ライミの登場である。彼の『死霊のはらわた』を見たときの興奮は忘れない。何の予備知識もなく、試写会で対面した。笑えるくらい怖い映画って、なんだ? この世の中で一番怖い映画『悪魔のいけにえ』(『悪魔のはらわた』でも『死霊のいけにえ』でもなく)の2番煎じだと思いバカにしながら見たのに、今まで見たことのない映画がそこにはあった。もうあんなふうに映画と出会えることはないのかもしれない。

70年代から80年代にかけてのパニック映画、ホラー映画の流行は素晴らしかった。アイデアひとつでどんなことだって可能だと思わされた。(アート映画だって同じだ。ATG映画が見せてくれる世界に驚嘆した。でも、それはまた別のお話だ。)

この映画はそのサム・ライミがプロデュースしている。一昨年ちゃんと東宝系で劇場公開もされている。その時に見てもいいかな、と一瞬思った。今の時代、こんなタイプの映画がメインストリームで公開されることはめったにない。もしかしたら、とんでもない「何か」がここには隠されているのではないか、と少し期待した。87分のいう上映時間も、もしかしたら、と思わせる。でも、あの時は見送ってしまった。

ようやく、見た映画は期待したほどの作品ではないけれども、とても手の込んだ作品で、悪くはない。冒頭の20分(ワニが登場するまで)の不穏な空気がどんどん高まっていくプロセスが素晴らしい。プールのシーン、ハリケーンの到来、自らその中へと入っていく。危険区域に指定されて封鎖された場所である父親の家に行く。連絡が取れない父親を捜すためだ。家にはいない。さらには、その先、もっと危険な以前住んでいた家に向かう。そこに父親がいるかもしれない。そこでもっと危険な地下室へと向かう。そこで倒れている父を発見して、ワニと遭遇する。

ここまでが白眉だ。それだけで十分楽しめた。そこからは当然、ワニとの戦いだ。つまらなくなるわけではないけど、ここからありきたりの域を超えない。地下から、外へ、家のなかへ、と戦いの場所を変えて、しかも、ワニは1匹ではないし。彼女とワニとの壮絶な戦いが繰り広げられる。すさまじい水が住宅に流れ込み、異様な風景と化した空間で戦いは続く。ただし、映画の後半はストーリーに仕掛けがなくなり少し退屈してしまった。あれこれシチュエーションを変え変化をつけるけれども、単純すぎて飽きる。

残念だがこの程度の映画に時間をつぎ込むのはもったいない。ただ。久々にこの手の映画を見て、たまにはこれはこれで悪くはないかも、とも思う。少なくともこれは手の込んだ映画で、観客を誠実に楽しまそうという思いは伝わってくる。


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