これは地下アイドル赤羽瑠璃シリーズの第2作。前作のことを忘れていたから、最初この小説、前に読んだ気がする、なんて思った。相変わらず間抜けである。
地下アイドル東京グレーデルのカリスマ、赤羽瑠璃の熱烈なファンである地味男の恋人。彼女は彼の推しである赤羽瑠璃に一方的に嫉妬する。これはそんないびつな恋愛感情を描く短編から始まった4話からなる連作。最初は赤羽瑠璃を巡る3人の女の話。そして最後の話は赤羽瑠璃本人が主人公になる。しかもそれは最初のエピソードの裏側が語られるというまさかのストーリーだ。
赤羽瑠璃はあの自分の熱烈ファンの地味男が好きだった。彼女は自分がアイドルなのにただの一ファンである彼のストーカーまでいていた。なんと彼の留守宅に忍び込んで恋人へのプレゼントを横取りするという暴挙にまで出る。さらにはあろうことか、彼の結婚式に乗り込んでいくくらいに暴走する。だけど、品行方正な彼女はそれ以上は何もできない。
最初の話とラストの話が呼応するという仕掛けはいささかあざとい。だけどここまで強烈な設定はなんだか清々しい気もする。カリスマアイドルの民間人(?)との恋というまるで『ローマの休日』のような設定にアイドルによる花婿奪還という『卒業』もどきの結末まで用意して、赤羽瑠璃というアイドルの心情に迫る。
ひとりの凡庸な男を巡って彼の恋人と彼が信奉するアイドルがお互いの存在も知らないまま対峙する。これはそんな驚きのドラマである。