小学6年生の男の子が駅でピアノ🎹に出会う。駅内ピアノを弾く老人の奏でる音色に心惹かれた。そして彼はピアノを弾くようになる。有本綾さんの物語と今日マチ子さんの絵が共有する世界を堪能する。素晴らしいコラボは主人公の海斗と花音のコンサートと同じ。
ゲームに夢中で毎日塾や習い事に忙しくしていた彼は初めてのピアノに心ときめく。新しい自分がそこにはいる。海と山の町で暮らし、中学受験が当たり前だと思っていた12歳。敷かれたレールの上をただひたすら走っていた。自分の意志なんかなかった。だけど、ピアノは彼に必要な自分というものを教えてくれる。おじいさん(青柳さん)と知り合い、彼の孫である花音ちゃんと出会い、新しい冒険が始まる。
ささやかな第1歩だけど、ここからほんとの海斗の人生が始まる。ピアノ・ピアーノ。イタリア語で「あわてず、ゆっくり、すこしずつ」という意味。そのことばを噛み締めて海斗はピアノと向き合う。
久しぶりに素直な気分で本と向き合えた。最近まるでノルマみたいに読書をしていた気がする。映画もそう。好きだったのにそればかりしてたら、何のためにしているのかわからなくなってしまった。仕事を辞めて好きなことをするって決めた。だけど好きなことなんてなかった。ただ映画と読書がいちばん好き。
だけど、演劇とバドミントンも好き。芝居を見て作り手と話をすること。バドミントンの練習をして初めての人たちと楽しく過ごすこと。劇評家やコーチとして関わるのではなくただ好きだから共有したいと思う。この本の青柳さんの海斗へのスタンスが心地よかった。やりたい人の応援をしたい。それが僕のしたいことだった。
もう仕事はやめたけど、やっぱり学校が好きで、今年になってから頼まれて、また授業をしていた。3月からしばらく常勤で働くことになっている。勉強は嫌いだし、できないけど学校とクラブ活動は好きだから、する。今はそれだけでいい。
そんないいかげんな気持ちでしばらく高校に行く。海斗はこの春から中学生になる。自分だけの『大好き』を見つけて欲しい。ピアノ・ピアーノを忘れずに。