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映画・演劇のレビュー

谷瑞恵『木もれ日を縫う』

2017-01-27 05:30:06 | その他
母は故郷の村で一人暮らししていた。少し認知症の気もあった彼女が行方不明になってから1年半が経つ。最後に会ってから5年。突然、三女のところにやって来た母は以前とは印象が違う。顔も少し違うし、全体的になんだか違和感がある。別人ではないか、と思うのだけど、本人は母親だと主張し、話すことや仕草は確かに母親そのものなのだ。彼女は「自分は山姥になったのだ、」と言う。



本人は「自分は山姥になったからこんなふうに変わったのだ」という。そんなバカな話はないのだけど、これは認知症の症状に一種なのかもしれない。このちょっとミステリアスな幕開けからラストまで一気に読ませてしまう。



母親の来訪を通して彼女の今までに生活が変わる。東京で、都会人の振りして肩ひじ張って生きてきたけど、それが正しい生き方だったのかと、疑問を抱くことになる。さらには、母の来訪を通して疎遠だったふたりの姉との交流が再開する。母という存在が疎ましいものだったのに、彼女が3姉妹をつなぐことになる。そこには今までなかった絆が生まれる。



これはとても気持ちのいい小説だ。そして、これは一種のハートウォーミングなのだ。だが、決して単純ではないし、ファンタジーに逃げるわけでもない。サスペンスも含めて、とてもよく出来たリアルなドラマとしてまとめられてある。謎解きも説得力がある。



実家から逃れて、東京に出てきた三姉妹のそれぞれの事情、問題。これまでそっけなくしてきた母親の死、という事実。というか、失踪。山姥になるなんていうバカげたお話が、なぜかとてもリアルで心に沁みてくる。何よりこれはとてもよく出来た家族小説なのである。壊れていた家族の再生のドラマだ。
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