まるで童話のような語り口だ。ひとりぼっちの6歳、男の子の名前を付けられた女の子のお話。優の母親は家を出ていった。母に捨てられて、父親からも捨てられる。魔女のような伯母のもとに引き取られる。
伯母のもとで育つ。小学校から中学、そして高校と。彼女は強くなりたかった。だから相撲を始めた。女なのに相撲? そんな偏見はここにはない。伯母は自由にさせてくれる。母は何もしてくれなかったのに。父はお金を出しただけで伯母に彼女を押し付けた。もちろん彼女は抵抗しないし、恨まない。彼女は「かいぶつ」だから。
こんな小説を読むのは初めてだ。絵のない絵本。行間はある。余白だらけの小説。人とは違う生き方をする優を伯母は何も言わず見守る。彼女はひとりだ。学校では孤立している。友だちはいない。中学で出会った関本晶子。あいつもひとりだった。何故かいつもひとり同士でつるんでいた。20歳の今も一緒だ。
かいぶつの本。伯母は絵本作家で、『もりのかいぶつ』を描いた。(書いた)
この小説を読んでよかった。たまたま図書館で見つけた。読みやすそうな文庫本だったから手にしただけ。何の期待もせず読み始めて、一瞬で魅了された。ラストまで来た時、これは宝物だと思った。みんなと違うことは間違いではない。みんなひとりずつ違うのは当たり前なのに、人と少し違うだけで変人呼ばわりされる。そんなバカな世界で僕たちは生きている。だけどこれはそんな僕らに勇気を与えてくれる。