帯には芥川賞候補作とある。それだけで僕は偏見の目で見てしまうそうになる。芥川賞受賞作は独りよがりの作品が多くてつまらない。この作品もそんな小説なら嫌だな、と思い手に取る。まだ若い作家による初めての小説らしい。震災を扱うというのも、どうだかなぁ、と思ったが、読み始めて、驚く。とてもいい。
短いいくつものエピソードが時系列で並ぶ。2011年から2021年までの10年間、彼女の見たこと、感じたこと、出会った人たちとのこと。小さなエピソードの連鎖が、この10年間の想いを伝える。被災した時から、26歳の今までの断片は、彼女の抱える痛みや、苦しみを少しずつ癒していく。同じように被災して、でも、全く違う体験をして、今に至る。当たり前だ。あの時被災地にいて地震や津波を体験したということが同じでも、置かれた状況やその内容はみんな違う。その軽微をどうこういうのではない。だけど、それをかわいそうの一言で括られたらたまらない。被災していないからわからないとか、逃げるのも嫌だけど、他人ごとではないことは誰もが感じている。ここに描かれるそんな距離と違和感がこの作品を小説として成立させている。主人公の女性が感じたこと、たどり着いた場所。
自分が感じたこと、体験したことを、そのまま受け止めてもらいたい。偏見や哀れみはいらない。さまざまな人たちとのささやかなふれあいが、今の彼女を作る。ようやくここにたどり着いた。