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映画・演劇のレビュー

ザ・ブロードキャストショウ『マネーアラウンドザワールド』

2021-11-26 11:52:53 | 演劇

なんとも懐かしい田中守幸作品だ。25年ぶりの再演となる。劇団往来としての公演も見ているし、展覧会のAでも(上演していたら、だが)見ているかもしれない。これは小劇場空間での芝居にぴったりの作品だ。でも、これをすさまじい人数のキャストを総動員して贈る。ザ・ブロードキャストショウの15周年記念公演である。

演出はもちろん往来の鈴木健之亮。今、このコロナ禍で、狭い空間での大人数のキャストでの芝居はNGになっているのに、敢えて、11名のキャストがこのスペース9の小空間にひしめき合いながら演じるドタバタ騒動だ。4畳半の一間のおんぼろアパートの中で、芝居の稽古をするというお話である。小劇場演劇の初心に帰るような作品である。それをなんと11月(2プロ、8ステージ)、12月(なんと5プロ、10ステージ)の2か月合計2週間にわたって平日も含む計18ステージ、7組の組み合わせで上演するという壮大な企画だ。

Bプロの初日に見させてもらった。90年代の小劇場演劇のノリを久々に体感できて、楽しかった。たわいもなく荒唐無稽なお話である。最初は「そんなバカな、」と思いつつ、あきれながら見ることになる。でも、やがて、このバカ騒ぎに取り込まれていき、何が本当で何が冗談なのか(嘘なのか)わからなくなっていくところは、作者の田中守幸の真骨頂だ。昔はこういうタイプの芝居はたくさんあったけど、最近はあまりお目にかからない。当時も田中作品を取り上げ、精力的に彼の書下ろし作品も含めて上演してきた往来の鈴木さんが、往来での『H2O』に続いて再び田中作品を取り上げる。

今の時代に、敢えてこういう作品を突き付ける意味はどこにあるのか、気になる。この作品は、一見泥臭い世界を描きながらリアルの感触が損なわれるこの時代になぜかうまく寄り添う気がする。こんな芝居を見たことがない若い観客に、新鮮な驚きを提示するかもしれない。同時に、ここに参加した役者たちにとってもそうなるのではないか。非接触が求められる時代にドタバタして密着して、感情を吐露して、銀行強盗の訓練という芝居の稽古の中で、自由に発想を膨らませて、虚構を演じる。限りなくリアルな虚構は真実になる。作品はそれを怖さにまでは高めないで寸止めする。結果的に2時間の楽しい時間を提示する。お芝居だからと思いつつも、それだけに留まらない世界をきっと見せてくれることだろう。


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