『リアルスティール』

　スピルバーグ製作の感動の親子愛を描いた映画で、この冬のファミリーピクチャーとしてはピカイチの傑作だ。悪いけれど、自身の監督作である『タンタンの冒険』より、ずっとこちらの方が出来がいい。単純なお話だが、それが近未来のロボットものというパッケージングを纏うことで、こんなにも新鮮で古典的な感動を素直に受け止めれる映画になるなんて、まさにスピルバーグマジックという他ない。監督は『ナイトミュージアム』の人だ。あのどうでもいいような映画を作った監督がスピルバーグの指導のもとでこれだけの映画を作ることが出来たということに驚きを禁じ得ない。要は教育の力の大きさである。僕の指導しているクラブが強いのも同じ理由だ。

　昔ながらのほのぼのとしたロードムービーのスタイルを取るのもいい。アメリカの田舎町を巡業するロボット・ボクシングという設定もいい。本当に単純な映画なのだ。その単純さが作品の力になる。主人公（ヒュー・ジャックマン）の別れた妻が死んでしまい、幼い子供が残される。彼は嫌厭だが、その子を連れて巡業に出る。彼はもとボクサーで、人生の敗残者だ。何をやっても上手くいかない最低の人生を送っている。偶然息子が廃工場でみつけた旧型ロボット（名前はなんとアトムである！）を修理して、戦うところから、お決まりのパターンになる。勇気と感動の熱いドラマが始まる。予定調和だが、安心して見ていられる。

　クライマックスはロボットチャンピオンとの戦いになるのは当然の話で、どこをどうとってもこれは『ロッキー』である。あるいは『あしたのショー』。ただしボクシングをするのは、この親子ではなくアトムだ。だが、3人は同時に戦う。アトムはしゃべったり、自分の意思で行動したりはしない。心を持つ人造人間ではなく、ただの機械でしかないロボットなのである。だが、というか、だからこそ、この映画は感動的になるのだ。疑似人間ではなく、ただ操るまま行動するだけ、なのだが、それがまるで自分そのままなのだ。アトムは自分が見たままを反復するようにプログラムされているからだ。少年の教える動きから学び、やがて、父親の教えるボクシングを自分のものとする。黙々意図学習するこのロボットの無表情がすばらしい。

　感情のない機械がなぜか、こんなにも愛おしいものとなる、そんな瞬間が描かれる。とても上手い。何かに仮託して自分の気持ちを伝える。アトムが戦う姿は、この父と息子が一緒になって闘う姿となる。