昨年『猫弁と鉄の女』を読んで驚愕した。面白すぎる、と。こういう軽いタッチの小説は山盛りあるけど、そこに描かれる主人公たちの生き方が素敵だから、心地よく作品世界に浸れるのがいい。夏川草介の『神様のカルテ』シリーズと同じだ。こういう生き方にあこがれる、というか、たぶん自分の中にもそういう一面があるから、共感したのだろう。真面目過ぎて、損ばかりしている。でも、自分ではなんとも思ってないから、これはこれでいいのだろう。いいひとでお人よし、今回もそんなマイペースで生きる主人公、猫弁こと百瀬太郎の姿にほっこりさせられる。ほっとさせられる。
さて、あの時は、この感動をもう一度、と欲張って前作に遡ってセカンドシーズン第1作『猫弁と星の王子』も続けて読んだのだが、ワンパターンで、縮小再生産って感じの印象だった。あまりに最初のインパクトが強すぎたのだろう。だから実をいうとまだファーストシーズンの5冊は読んでいない。
今回の新作も読み始めたときは、なんだかなぁ、という感じだった。ワンパターンのお話に乗れないわけではないけど、マンネリ。しかもなかなか話が進まないし。でも、後半になると、エンジンがかかってくる。この幽霊屋敷を巡る事件と孤独な人たちのドラマがうまく重なり合う。すべてのお話を丸く収めすぎるのはお約束だからしかたないかもしれないし、少し甘すぎる気もする。だけど、この優しさがいい。読みながらどうしようもない淋しさと向き合い、でも、誰かと出会い、助け合い、生きるすべを獲得していく。男性恐怖症の千住澄世の幽霊屋敷や、ペットホテルの立てこもり犯のお話を描きながら、彼らが抱える問題を百瀬太郎がほぐしていく。ある種のワンパターンだけど、やはり読んでいて楽しい。来年、新刊が出たらきっと読んでしまうのだろう。