リレー形式で描かれる群像ドラマ。第1部は30人のエピソードの連鎖。バトンを渡されたメンバーがお話を(どんどん)つないでいくのだが、その人物が主人公となり、独立したエピソードがそこには描かれる。でもその小さな連鎖が最終的にはひとつの大きな物語へと変貌する。5年後を描く第2部がただのまとめ(あるいはオチ)ではなく、ふたりのラブストーリーのハッピーエンドになる。空白の5年間までもがそこには描かれることになる、主人公である2人のエピソードだってほかの30数人と同じ比重で描かれる。第1部の終盤、28話目で綾香の話が描かれ29話目で孝範のエピソードとなる。帰着点が彼ら二人なのだと明確になったところで、ほぼお話は終わるという構造だ。
そこからは怒濤の展開である。5年後20歳になったふたりが結婚することになる。そのエンディングに向けての助走が5年後の中学生たちによって語られるところから2部は始まる。でも、ここは一瞬だ。34エピソードだから4話でエピローグに突入する。5年後の同窓会だ。この小説が描いたどこにでもありそうな「恋愛」は、どこにもないほどの展開を見せて未来へと突き進む。中学の同窓であるふたりが付き合い、別れ、5年後にいきなり結婚することになるという奇跡のようなドラマを吉野万理子はこんなにもさらりとさわやかに描いた。14,5歳の時間を、何人かの彼らの周囲にいる大人も含めて(その視点は大事だ)描いた。これは中学の野球部と応援部という核になる部分だけではなく、すべての子供たちにむけての応援歌だ。
最初は軽い読み物だと思い、簡単にどんどん読み進めるけど、やがて実はこれはただの短編(掌編)連作ではなく壮大な大河ドラマだったのか、と気づくことになる。中心にいるふたりをみんなが応援するというパターンではなく、彼ら自身も周縁の人たち(言い換えると、みんなが主役ということになる)と同じ立ち位置で描かれるのが凄い。これは誰もが自分たちの物語の主人公なのだ、というさだまさしの言うようなドラマになっている。しかもふたりの結婚に至る理由がすごい。(そこは自分の目で見て、読んで欲しいからここには書かないけど)
『階段ランナー』に続き、今回もとても読みやすく、でも、とても奥の深いドラマを提示した。プロ野球の選手になるという夢が実現するけど、そこが到達点ではなく、それどころかそこは出発点なのだ。学校の先生になるという彼女の夢も同じ。どんな夢でもいい。その実現の向けてみんながそれぞれの場所で戦っている。大事なことはそこに尽きる。これを読みもせずに「中学生を主人公にしたやわなYA小説だろう」と侮ってはならない。児童書はそのへんの芥川賞とかをとるようなヘボな純文学なんかよりもずっと「純な文学」なのだ。