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映画・演劇のレビュー

岸田るり子『めぐり会い』と6月後半の読書

2008-07-07 18:49:05 | その他
 6月後半に読んだ本の中で、一番面白かったのは岸田るり子の『めぐり会い』。これはきっとそのうち映画化されるであろう。映画会社が大喜びするようなアイデァの小説。

 主人公は箱入り娘で、今まで自分の意志で行動をしたことがない。親の言いなりになって意に染まぬ結婚をしたが、満たされない毎日を送っている。夫はいい人だと思っていたが、彼女と結婚する以前からずっと付き合っていた女がいて、親に反対されたから、しかたなく彼女と結婚しただけ。今もその女を愛しているらしい。彼女は偶然出逢った15歳くらいの男の子に恋をする。しかも、相手はデジカメの中に映っている少年。現実の男ではなく、確かにこの世には存在するだろうけれども、どこにいるのかもわからない子供だ。10歳も年下の写真の中の少年。しかし、その写真を手がかりにして、彼を探していくうちに意外な事実に出会う。

 彼女の話と並行してスランプに陥ったミュージシャンの話が描かれていく。彼は明らかに10年後の少年の成長した姿だ。10年という歳月を超えてこの2人の愛はいかに成就するのかが描かれていく。

 とても上手い作り方だ。ドラマ自体にはあまり深みはないが、ちりばめられたピースがすべてきれいに重なっていくラストはお見事というしかない。虚構でしかない物語の心地よさを十二分に満喫させてくれる長編。

 同じようにエンタメだが、これもとてもよく出来ていたのが、幸田真音『あなたの余命を教えます』。5人の男女が余命予告ビジネスに巻き込まれていく。自分たちに残された正確な余命を知った時、人はどうなっていくのかが、とてもリアルに描かれてある。ドラマとしての深みはこれもあまりないが、とてもおもしろい。

 もう1冊、エンタメ系。永瀬隼介『嘘』。3人の少年たちが死体を捜す旅に出る、というまさに『スタンド・バイ・ミー』の日本版。行方不明になった同級生の少女。彼女の死体があるという少年。現在と過去が交錯して、あの旅の意味がラストで明確になる。これもなかなかよく出来ているが、それだけ。

 豊島ミホの新作『カウント・ダウン・ノベルズ』も読んだ。これは10話からなる連作。ヒット・チャート1位から10位までのミュージシャンを巡るお話。彼(女)らがこの瞬間、どんな気持ちを抱き生きているのかが描かれる。

 馳星周『やつらを高く吊るせ』はまるで往年のTVドラマ『探偵物語』や『傷だらけの天使』を思わせる探偵物。5話連作。これもTVドラマにでも出来たらちょっと変わったものになっておもしろそうだ。ただ、ちょっとエロが過激なので、そのへんはTV向けに改変する必要がありそうだ。三池崇史に撮らせたらいい。昔ならすぐにでも、Vシネマになったはずだが、今はもうVシネマなんてこの世から消えてしまった。

 期待の新人、草野たき『メジルシ』は狙いは悪くないのだが、あまり上手くない。家族がバラバラになっていく直前。最後の家族旅行。3泊4日の北海道。最初で最後の旅。父と母。自分。頑な過ぎる母親の描写にもうすこし掘り下げが欲しい。あれでは納得いかない。あれでは父親が可哀想だ。

 今は重松清『カシオペアの丘』を読んでいる。下巻に入ったところ。気合いの入った長編なのだが、いつものシャープな切れ味がない。彼は中短編のほうがいい。4人の幼なじみの夢と現実がどんな結末を迎えていくのか。

 久しぶりに椎名誠のバカエッセイも読んだ。『長さ1キロのアナコンダ』。息抜きです。6月後半から7月かけては、こんな感じだ。

 

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