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映画・演劇のレビュー

『人間失格』

2010-02-24 22:46:04 | 映画
 まず真っ先にこれだけは言う。これは『映画失格』である。こんな映画でいいわけがないだろ。いくら映画は原作とは別物とはいえ、ここまでやってしまったらいけない。単なる失敗では収まらない。酷過ぎる。

 監督はあの『赤目四十八瀧心中未遂』の荒戸源次郎なのだが、今回はなんとも手に負えなかったようだ。前作はあんなにもすばらしかったし、彼がプロデュースした傑作の数々を思い出すと、このやっかいな映画だってなんとかしてくれるのではないかと、実はかなり期待したのだが、見事なまでに大失敗していた。原作をそのままなぞっているにも関わらず、ここまで原作から遠い映画になるってどういうことか。ストーリーだけをなぞるだけでは映画にはならない。そんなこと重々承知の上だろうが。

 葉蔵(生田斗真)が自分を「道化」として生きていく姿がまるで描かれない。冒頭の跳び箱のシーンくらいか。あれは柄本佑が不気味で、映画の始まりとして実に秀逸な出だしだった。それだけにあれだけで終わったのが残念でならない。

 その後は彼の道化ぶりはまるで描かれない。自分を偽って生きていくことで、彼が人間としてダメになっていくというこの小説の要の部分がおざなりにされたまま、ストーリーだけを追いかけても何の意味もないし、感動もない。しらじらしい映画になった。太宰ってこんなにもつまらなかったっけ、と驚くほどだ。誰もが自分が葉蔵だ、と思うように書かれた原作からこまで遠い映画になってしまうなんて夢にも思わなかった。

 映画の道先案内人でもある大楠道代はともかく、室井滋とか、三田佳子とか、あんな使い方でいいのか? 女優陣が軒並み酷い描かれ方でまるで魅力がない。さらには森田剛の中原中也! あんなスマスマレベルの演技でこの映画に登場しないで欲しい。生田斗真が孤軍奮闘して頑張ってるのに、彼すら『道化』にしてしまう。(この『道化』はこの映画が本来描くべきものではない)これはコスプレ映画ではない本気の映画なんだからおちょくったように見えるのはどうだかなぁ、と思う。

 この映画がストーリーの表層だけをペラペラに描いただけの作品になってしまったのは残念でならない。これは誰もが心ときめかした太宰治の『人間失格』の完全映画化なのである。その大きな期待をこんな感じで裏切るなんて、なんだか悲しい。最後の列車の中で彼が人生の中で出会った人たちが勢揃いする場面なんか圧巻のはずなのに。確かに力のこもった大作映画である。それだけに、なんか腹立たしい。

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