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映画・演劇のレビュー

『サイレント・トーキョー』

2020-12-17 22:08:03 | 映画

この冬一番の超大作である。この手の映画は新春第一弾のお正月映画(クリスマス映画)として大々的に宣伝されて鳴り物入りで公開されるというのが今までの日本のしきたり(!)だった、はずだ、った。だが、これだけの大作なのにまるで宣伝もなく、ひっそりと公開され消えていく。作品の完成度がいまいちだから、ではない。時代が変わってしまったのだ。きっと。

東京がテロの標的になり、パニック状態になる、というスケールの大きなアクション映画のはずだった。だけど、見終えた時に印象はなんだかあまりにしょぼくて、こんなのでよかったのか、と思う。派手な見せ場が一カ所しかないというのも、がっかりだが、お話自体に説得力がないのが一番の問題点だろう。渋谷での大々的なテロ行為は最大の見せ場なのだが、クライマックスにもうひとつ見せ場が欲しい。これではドキドキさせる映画にならない。エンタメ大作ではなく、社会派映画だというのなら、犯人の背後も含めてもっと緻密に描くべきだ。これは佐藤純彌監督の『新幹線大爆破』のようなタイプの映画ではないか。あの映画の犯人グループと同じくらいの説得力がなければ映画として納得はいかないだろう。犯人がなぜこんな行為に及んだのか。切実な理由が欲しい。これでは安易すぎるし、あまりに単純すぎて、リアリティーがない。

 

主人公であるはずの2人の動機や、状況が絵空事でしかないので、怖くない。コロナ禍の今、この映画のテロはうそくさい.現実に負けている。想像力が足りない。だいたい佐藤浩市が途中から出てこなくなるのは、どういうことか。お話のポイントが犯人探しではないのなら、じっくりと人間を描くべきではないか。

 

そして、彼の行為を通して、平和ボケした東京都民に冷や水を浴びせかけるだけの恐怖が描かれなくてはならない。今自分たちが生きているこの世界がどういうふうに成り立っているか、それがどれだけ危ういものか、震撼させる、そんな映画であるべきなのだ。テロリストや、タカ派の総理の理不尽な論理が、どんな現実を突きつけるのか、それが一番見たいところで、今時パニック映画は要らない。もちろんエンタメ・アクション大作という意匠で構わないし、大予算の作品なのだから、まず商業映画として成功して欲しい。だけど、この内容では観客の支持を得るのは困難だろう。派手な爆破シーンとか、パニック描写は今、誰も期待しないのではないか。そんなことは承知の上だからこそ、こういう構成の台本を作ったのだとすると、よけいに終盤の展開にお話としての説得力が欲しいのだ。

静かな映画になるといい。クリスマスの夜、心静かに待ち望むものを、この映画が提示できたなら、これは最高のクリスマスプレゼントになる。結果的に、誰もマスクをしていない2020年のクリスマスを描く意味をこの映画が提示できたなら凄いことになったのだろうけど、これでは想像力が足りない。やはり映画が現実に負けている。

 

 


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