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映画・演劇のレビュー

「冠」~Kan~『痒み』

2019-05-31 21:08:18 | 演劇

久しぶりに小劇場演劇ならではの魅力に富んだ芝居を見た。ここには小さな空間だからこその興奮と感動がある。よくわからないけど、引き込まれ、ドキドキしながら見守る。そしてラストまで一気に引き込まれていく。

 

 「フツー」の大学の七人の女子大生たち。写真サークルの卒業展の準備。メンバーのひとりが失踪する。それから10年。毎年恒例のサークルのメンバーによる定例食事会(同窓会ですね)に彼女が突然現れる。最初はミステリ的な展開を見せながら、それはただの入り口でしかなく、徐々に心の迷宮へと引き込まれていく。七人それぞれの想いは交錯し、思いもしない展開へとつながる。彼女たちの乗った飛行機が墜落して無人島でのサバイバルが始まる。そこでの10年の日々。不思議な感覚のドラマはリアルとはほど遠い気味の悪さに彩られる。タイトルの『痒み』が象徴するもどかしさや不快感。掻きむしることで、体を傷つけていく。ストレートな『痛み』ではなく、もっと曖昧なもの。七人の交わす会話、彼女たちの存在のあやふやさ。あやうさ。わかりやすい芝居とは違う。でも、そのわからなさに心惹かれる。だからこれはとても芝居らしい芝居なのだ。観客を煙に巻くのではなく、とても誠実に彼女たちの内面を象徴的な見せ方で描く。台本の持つ不気味さを演出の佐藤さんは丁寧になぞる。一切説明はない。不条理なできごとも、さらりと見せる。そこに理屈や意味を求めない。ラストの「まずっ」(不味い)という一言で、すべてが現実なのだと思わせる鮮やかな幕切れも見事。

 

才能があっても埋もれていくことはある。若き日の憧れと嫉妬。22歳、32歳、42歳。そして、ラスト、老女になった彼女たちの交わす会話まで。視覚的に目まぐるしく展開させるけど、じっくり見せる会話劇でもある。虫たちを食べるとか、蛆がわいてくるとか、グロテスクなシーンも折り込みながら、シュールとリアルのバランスを取りつつ、七人の内奥に迫る。

 

サリngROCKによる秀逸な脚本を、いつもながらの音と明かりを駆使した華やかなタッチで視覚的なスペクタクルとしてもちゃんと見せながら、今回は、基本は抑えたタッチで、しっかりとお話を見せる。そんな佐藤香聲によるバランス感覚の取れた演出が際立つ。

 


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