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映画・演劇のレビュー

そとばこまち『キャビア・ウーマン』

2006-11-12 00:03:09 | 演劇
 そとばこまち30周年記念作品である。そして、あの上海太郎が約20年振りにそとばこまちの舞台に立つ。しかもゲスト出演ではなく、準主役のポジションで本格的にストレートプレイに取り組むのだ。そこに限りなく魅力を感じた。なぜ、彼がこの企画に参加することにしたのかに興味が湧く。その答えが作品を見ることで見つかるか。それがこの作品を見た1番の理由。

 『丈夫な教室』以降、久しぶりにそとばこまちを見た。『シークレットライフ』3部作に始まった小原延之作品があまりに素晴らしかったので、彼が抜けた後のそとばを見るのは正直怖かった。だが、原点に帰ろうとする新生そとばこまちの姿勢はとても好感が持てる。普通の劇団ならこんなことはやらない。それが、そとばには出来る。それは彼らがひとつのカラーに染まらない芝居をずっと続けてきたからだ。だからといって僕はこの作品を全肯定するつもりはない。どちらかというと全否定かもしれない。

 この作品はそとばらしい洒落たコメディーを目指したものだが、正直言うと、とても拙い出来だ。まるで学生劇団のような幼さと,初々しさが同居した作品で驚かされる。きっとまだ若い作家(坂田大地)に舵取りを委ねたのだろうが、それにしても大ベテラン劇団がこんなに欠陥だらけの台本で芝居を作り上げるなんて大胆にも程がある。

見終わって正直呆れたが、それでも実はあまり腹は立たなかった。それは、まるで初めて芝居を作る集団のような若若しさと、ときめきがここにはあったからだ。見ていて微笑ましい、なんて思えた。きっと30年前の学生劇団だった頃の彼らの芝居がこんな感じの元気のいい芝居だったのではないか、と思わせる。そんな芝居なのだ。(実は僕はその頃の彼らの芝居を見てる。つみつくろうが座長してた頃だ。昔の話なのであまり覚えてないのです。ごめんなさい。)

 詐欺師たちの対決を描くドラマなのに全く彼らの手口が幼稚すぎて説得力ゼロなのには呆れた。テンポも悪いし、無駄な説明が多く間延びするからいたずらに上演時間が長くなるのだ。この内容で2時間20分はあんまりだ。

 主人公が結婚詐欺にあってもひたすら騙した女を信じ続ける一途さは、ほとんどバカなのだが、そこを詐欺師(この役が上海太郎)に見込まれ仲間入りするというストーリー自体は悪くはない。しかし、彼が簡単に詐欺師としてうまく仕事をこなすのは、あんまりだ。御都合主義も甚だしい。ストーリーは全篇そんな感じの穴だらけ、スキだらけで、本来この手の芝居に必要な緻密な展開と隙を突くアイデアなんてまるでない。

 主人公の名前が「鈴木【正直】」でヒロインが「品川【真理】」というネーミングは面白いし、そこから発想するドラマ作りがあってもいいのに、その点に関してもそれだけのことで何の仕掛けも用意しない。思いつきで台本を書いてる気がする。若い演出家を周囲がサポートしてるのだろうが、ベテランがもう少し手を入れてあげてもよかったのではないか。上海太郎はこの作品の出来に何も言わなかったのか。見終えて、実はそれが一番気になったりする。この作品で彼は満足か?

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