習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『BRAVE HEARTS 海猿』

2012-07-14 21:56:41 | 映画
 絶対あきらめない。このあまりに単純バカな覚悟が主人公の仙崎(伊藤英明)を支える。伊原剛志の先輩特救隊員から、その嘘くさい正義感を疎ましく思われる。考え方も、立場も違う2人は対立する、とかいう構図がよくあるパターンなのだが、大人であるふたりはちゃんと距離を置いて接することが出来る。だから、つまらない喧嘩のシーンなんかない。だが、やがて彼らは救助活動を通してひとつになっていく。

 全編こんな感じで、暑苦しい映画である。だが、それが、とても心地よい。仙崎のまっすぐな生き方が周囲を動かしていく。ただのヒロイズムではない。自分の身を犠牲にしてもみんなを救うとか、ではない。そのへんに関しては先に見て、まだこのブログに書いていない『グスコーブドリの伝記』でも扱う問題だ。そこで、ちょっといろいろ書く予定。仙崎は、ただ助けを求めている人を目の前にして、見殺しにするなんて出来ない。もちろん、誰もがそうである。だが、どうしようもないことがたくさんある。きれいごと、だけではやっていけない。そんなこと、彼だって誰よりもよく知っている。伊原先輩は、仙崎のやり方に納得いかない。当たり前だ。だが、彼を見ているうちに、こいつは本気でバカだと言うことを理解する。ただ、命を救いたい。その衝動だけに突き動かされて不可能を可能にする。

 スーパーマンを描くのではない。でも、この純粋な理想を描くことに意味を感じる。今の若い人たちはあまりにあっさりしすぎていて、あきらめも早いし、大丈夫なのか、と思う時が多々あるが、それを時代のせいにはしたくない。じゃ、どうしろ、と言うのか。その答えはここにある。この映画シリーズが、たくさんの観客から支持された理由とつながる。誰のなかにも仙崎はいる。ただ状況が許さないから、自分を抑えているだけの話だ。極限状況を描くこの映画はそんなことを教えてくれる。誰もあきらめてはいないのだ。

 この局面を切り抜けることが出来たのは仙崎の力ではない。彼に先導されてみんなが力を合わせたからだ。困難に直面して、不可能な状況になっても、的確な判断と勇気で切り抜けていく。生きる希望を最後まで棄てない。

 単純すぎるのは重々承知の上だ。でも、その単純をきちんと描き込めるか。そこがこの映画の生命線だ。きれいごとに過ぎないことにリアルを感じさせること、観客にしらけさせないこと、それが出来ているからこの映画はこんなにも感動的なのだ。第1作でバディーを死なせてしまった仙崎が今回は死なさない。ただ、それだけの違いを映画は重視する。そんなのは、彼のせいではない。彼の力でもない。だが、その差が描けたことで、このシリーズは初めて完結する。全員無事に帰還させた。きれいごとを成し遂げたことで、きれいごとになんかしないのだ。

 20分で沈んでしまうジャンボジェット機から300人以上の乗客を救いだすというありえないような離れ業を感動的に描くこの夏一番の大作映画は期待を裏切らない。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ステージタイガー『協走組曲 ... | トップ | 『さらば復讐の狼たちよ』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。