今年もクロムが大阪にやってきた! 必ず毎年大阪を忘れず、彼らは戻ってくる。そんな律義さが好き。東京で有名な劇団になったって、大阪を忘れないよ、という姿勢が好き。というか、そんな大げさなことではなく、習慣のように、ちゃんと、大阪公演もしてくれるクロムが好き。
いきなり、何を書くのか、と自分で自分に驚く。最近、少しおかしい、のかもしれない。でも、この芝居の青木さんもおかしい。こんなにも、ストレートなラブ・ストーリーを青木秀樹が作るなんて! しかも、後半なんて、静かな芝居になってしまう。大音響とか、ノイズとか、狂気と本気が入り混じり、何が何だかわけがわからない狂騒の世界を作る青木ワールドがクロムなのに・・・
これは青木さんの原点帰りか? 自分が好きだったことを、もう一度、テレることなく素直に見せてしまう。クロネンバーグ、デビット・リンチ、カウリスマキ、ウォン・カーワァイ等々。彼の口から飛び出してくる懐かしい映画監督の数々。90年代に一世を風靡した作家たち。終演後の楽屋前で立ち話した時、彼が口にした名前だ。もちろん、彼らは映画史に残る作家たちだし、現役作家だ。初期の(大阪を離れる前の)青木さんに影響を与えた。もちろん、僕にも、そして、たくさんの人たちにも。
なぜ、今、そこなのか。今回青木さんが目指したものは、何なのか。まず、このわかりやすい芝居に驚く。こんな単純なストーリーラインを見せる青木作品は珍しい。しかも、それが後半、究極の愛の物語になるのは前述したとおりだ。だが、「今回のポイントは後半ね、」というのではない。悪夢の連鎖を描く前半の単純さにこそ、注目したい。軽快に展開するストーリーに乗せられて、どんどんお話が横滑りする。ドラッグ中毒で刑務所に入った男。が、刑務官からスパイを依頼されて、売人のところに密偵として行く。でも、ちゃっかり、見破られていて、売人から、さらにスパイを依頼されて・・・ 何が何だかの展開はいつものことなのだが、それが軽快でストレート。
とてもスタイリッシュで、ポップでダーク。意味のない言葉が飛び交う。でも、その無意味がとても熱くて心に沁みてくる。わけのわからない熱意。彼らの思いの丈がしっかり伝わってくるからだ。とても真面目で誠実。芝居自身がそんなふうになっている。こんなクロムを見るなんて、それだけで驚きだ。鳥になりたいというタイトル通り、この芝居を素直に受け止めたい。