『シェア』『キャピタル』の新鋭がまた、とても魅力的な作品を仕立ててくれた。このなんとも言い難い空気が好き。たまたまTVでタイに行ってしばらく生活する旅行番組を見た直後読んだので、微妙にシンクロして面白さがアップした。
何をしてもうまくいかない閉塞感。若くして人生をあきらめてしまったような気分。会社を辞めて起業する男の話なのに、それってなんだあ? ベトナムでゲストハウスを開業する。ダナンの浜辺で悠々自適な生活をする、はずで現地に行くのだが、そんな甘い話はない。写真で見た風景はそこにはない。そんな安易な考えで海外に出て生活できるのが不思議だ。でも、やってしまい、すぐに破産する。最低の生活が待っている。しかし、なぜか、なんとか、生活が成り立つ。
で、お話はここからだ。タイに行って成功する。だがこれは成功することで見えてくる明るい未来が描かれるのではない。成功してお金も余裕もできて、バンコクでの暮らしに慣れて、新しい挑戦もする。だけど、テンションは上がらない。最初の失敗が尾を引いているわけではない。ここでの生活にも慣れ、なんとかなる、と思う。成功がずっと続くわけもないことはわかっている。現に今も、ピンチが目の前にある。だけど、必死にはならない。お客が見える商売がいいね、とか言いながら、そこにも固執しない。なんだか、本気ではない気がする。別に無気力だというわけではない。それなりに頑張っている。これからも頑張ることだろう。でも、夢見るようなことはない。漂うように、ここにいる。そんなこんなのなんとも言い難い感覚が面白い。
130ぺージほどの中編で、いろんな意味で中途半端。つかみどころもない。だけど、この危うさが読んでいて心地よい。今の時代、分かりやすい安定した生活なんか信じられない。それじゃぁ、どんな生活が理想なのか、実現可能なのか。それもよくわからない。浮き草のようにそこにいて、流されていく。どこまでも思いもしないところにたどり着けばいい。