スピルバーグはこの複雑に絡み合った群像劇を2時間以内の作品として仕上げて、真正面からストレートにメッセージを突きつけてくる。要はすべてを失うことになるかもしれない賭けに挑む1人の女性とその周囲の人たちの命がけの告発劇なのだ。あの懐かしい『大統領の陰謀』に繋がるドラマ。先日見たオリバーストーン新作『スノーデン』の内部告発劇と同じパターンなのだが、彼以上にスピルバーグは単純明快。
この強烈なドラマを支えるのは、真実を明るみに出すために彼らがすべてを犠牲にして仕事に打ち込んでいる姿を丁寧に見せたところにある。きれいごとではないリアルな現実をサラリと見せる衝撃。事実を報道すること、他社を出し抜くための熾烈な戦いも含めて。それがあるからラストの選択も説得力を持つ。
ここに登場する記者たちは全身全霊を賭けてこの仕事と向き合っている。過酷な現実の不条理と迫り来る時間と戦いながら。事件そのものよりも、そんな彼らを見たということの感動のほうが大きい。真実を伝えるというメッセージよりもそちらのほうが数倍尊いものに思える。
メリル・ストリープが素晴らしい。いつものような過剰さを抑えて、内に秘める。さらりと凄いところへと踏み出していく。トム・ハンクスが同じようにサラリと支える。政府の機密文書漏洩。つぶされるかもしれない危険を承知で報道する。真実のため正義のためというお題目以上に、大切なものを守ることを巡るせめぎ合いが前面に出る。単純な話だけれども、単純な映画ではない。