『月とキャベツ』の篠原哲雄監督が初めて「学園もの」の少女漫画に挑戦した。これまでいろんなタイプの映画を作ってきたけど、彼の原点は、やはり『月とキャベツ』だ。あれがキャリアのスタートだし、あれが最高傑作だろう。あんなにも爽やかな青春映画はなかなかない。僕はあの1本で彼の虜になった。そんな彼がさらっとしたタッチの時代劇大作の『花戦さ』に続いて取り組んだのが本作である。典型的な少女マンガの王道を行く。期待は大きかった。彼がそこにどんなものを提示してくれるのか、ワクワクしながら見た。なのに、なんだかまるで乗れない。
まず、この映画には特別なストーリーが一切ない。転校してきた少女の高2の冬から卒業までの日々が描かれるだけ。1年3ヶ月の物語なのだが、ストーリーらしいストーリーはない。一応学園もののラブストーリーの定番は踏む。同時期公開の傑作『坂道のアポロン』と同じ2人の男の子と1人の女の子の揺れる想いが描かれはするのだが、全くレベルが違う。篠原監督なのにどうしてこんなにも空疎な映画になったのだろうか。考えられない。
しかも3角関係のラブストーリーというわけでもない。まぁ、それはそれでいい。でも、まるですべてが絵空事なのはどうだか。だから何の感動も生じないつまらない映画で、わけがわからない。白々しい。なぜこうなったのか。何を意図してこうしたのか。もしかしたら、わざとこんなにも平板なドラマを提示したのではない、とか。
雪の北海道を舞台にして、転校してきた少女が、まるで恋人同士のような2人の男の子たちと出会い3人でひとつの世界を作り上げていく。真っ白な雪のような3人の傷つきやすく汚れやすい心が溶け合っていく。夏の草原を舞台にして1人の少女が再生していくドラマでデビューした篠原哲雄が冬の雪原(ではなく、札幌なので、都会だけど、クライマックスは雪原のシーンだ)を舞台にして同じようにひとりの少女が再生していくドラマを作った。この2本は実は対になっている。そう考えると、失敗作だけどこの映画が少し愛おしいモノにも見えてくる。きれいごとを平板に見せることで、客観的に人生における「ある季節」を見せる。そこには、(もしかしたら、僕が見落としただけで)大事な「何か」があったのかもしれない。そんな気がしてきた。何もないことでその目的が達成される。そんな映画だったのかもしれない。