大沢秋生の芝居を見るのはいつ以来だろうか。90年代(調べたら93年から2000年代だったけど)ニュートラルの数々の作品で一世を風靡した。あれから気の遠くなるほどの時間が過ぎていった。
この芝居を見ることにしたのは彼が演出を担当しているから。それだけ。もちろんレトルト内閣の福田恵が企画、主演しているというのも魅力的だったけど。
ピン芸人だというどくさいスィッチ企画が台本を担当する。彼のことは僕は全く知らなかった。芝居自体は「日常と非日常を自在に行き来するコメディ」とチラシにはある。なかなか興味深い。それって何か、気になる、というくらいの興味は湧くが、目的はあくまでも大沢秋生。
80分の芝居は福田さんの上手さと、達者な共演陣のサポートがありウェルメイドで楽しめる作品にはなっている。だけど、それだけでは僕は物足りない。台本にはひねりがなく、役者はそれを膨らませる余地はないから丁寧に演じることに終始するしかない。それは演出も同様。大沢さんらしさはどこにもない。
これが彼の持ち味が活かせる芝居ではないからだ。だから職人に徹してお客さんが楽しい時間を過ごせるようにサービスする。無理はしないで、安全圏で作ったって感じ。ガッカリした。
アンダーカバーを題材にしたコメディだ。新入社員として配属された中年男性は実は専務で、やる気のない社員たちと接していく。いろいろ細かい仕掛けはあるし、この設定から始まるお話は決してお決まりのパターンではないけど、あまりに単純。彼らの日常が非日常へと変貌していく過程でラストに向けてなんらかのもっと大きな仕掛けがなくてはつまらない。少なくとも大沢さんらしい怖さだけでも見え隠れしたら、きっと面白い芝居になったのではないか。これでは無理。悔しい。