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映画・演劇のレビュー

『 MONGA 』

2010-07-18 23:05:50 | 映画
 正月に台湾に行った時、『艋舺(MONGA)』(イーサン・ルアンとマーク・チャオ主演)が大々的に宣伝されていたが、春節公開だったので、残念ながら見れなかった。その後、この映画はすごいヒットとなり、さらにはこの夏の台北映画祭コンペにも登場したようだ。ようやくDVDで見ることが出来た。

 台北市、龍山寺周辺のモンガと呼ばれる地域を舞台にして、5人の少年たちが、ヤクザの世界に足を踏み入れていく姿が描かれていく。前半は学園もの。新しい高校に転校してきた主人公はイジメに遭うが、そこで4人組の不良と出会い彼らの仲間に入ることで、自分の居場所を見つけていく。ケンカに明け暮れる牧歌的な日々。だが、後半、一転して、クラスメートを殺してしまったことから、それがヤクザ同士の抗争の火種となり、自ずとその渦中に巻き込まれていく。
 
 韓国で当時歴史的ヒットとなった『友よ チング』を思わせる映画だ。ヤクザものなのだが、メーンとなるのは、少年たちの友情物語であり、それが、ほんのちょっとしたことから、取り返しのつかないこととなり、友情ゆえの裏切りによって、みんながバラバラになり、死んでいく。先にも書いたが、今年2月台湾で公開され大ヒットを記録した映画である。一見何の変哲もないこの映画がなぜそこまでヒットしたのだろうか?

 86年という、今からほんの少し前の時代を舞台にしている。(台北は急速な都市化によって風景は激変した)台北の中心地でありながら、ほんの少し離れた場所であるモンガという地域もこの映画にとってきっと重要なのだろう。不安の中で、何かを信じ(それが、仲間との友情だった)その結果最悪の状況を脱して、生きていくよすがを手にした。だが、それが破滅への序曲となっていく。とても単純なドラマを2時間21分の大作として、とても丁寧に見せていく。

 ここに描かれるノスタルジックな青春が甘くて優しいものではなく、悲惨で過酷なものであるということが、大事なのかもしれない。自分たちを守るために大人たちを犠牲にする。しかし、それすら大人たちに利用されていただけで、結果的には自分たちを破滅に追い込むこととなる。お互いが信じられなくなり、相手の自分に対する優しさすら利用して、彼を刺したり、殺したりしてしまう。相手とは敵のことではない。一番大事にしていた自分たち自身なのである。5人組の彼らチンピラが自滅していく痛ましい姿を通して、ひとつの時代の終わりを描く。

 この映画が描こうとするものは、台湾という国が、子供時代から大人の時代へと移り変わっていくその過渡期にあった季節を象徴させた物語ではないか。だから、この映画はたくさんの観客の支持を得たのだろう。台湾の人たちの底なしの優しさが、自分自身を傷つけていくことを知ったとき、それでも優しさを失うことなく生きていけるのだろうか。日本人が失い、韓国人も失ったものを、台湾人もまた失っていこうとするのか。


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