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映画・演劇のレビュー

東直子『らいほうさんの場所』

2010-01-31 20:02:39 | その他
 読み終えてなんだか嫌な気分にさせられます。救いようのない。小説としては実に上手いとは思うけど、自分から進んでわざわざこんな気分にさせられるのは嫌です。(と、いきなり、こんなタッチで描きだしてしまった!なんだかわからんが丁寧体で書いてしまったのだ。)

 この後味の悪さは、生きていくことの痛みなのか。3人だけの家族。姉と、妹。そして、弟。彼らは両親が死んで居なくなった家で、今もずっと暮らしている。次女は一度結婚してここから出て行っていたが、今では再びここで暮らす。誰もここから出て行かない。自分の家庭を作らない。弟は障害を持っているようだが、最初はそれすらわからない。ただの甘やかせでしかないように見えた。

 だから、ここは普通の家族だった。なのに、だんだん歪になっていく。弟に対する姉の過保護がある段階から一歩踏み出してしまう。そこから彼らは異常な家族に見えてくる。

 何一つ変ったところなんかない、はずだった。インターネット占いで生計を立てる姉。公務員の妹。派遣で肉体労働をしている弟。彼らが守り続ける家、生活。豊かとはいえないまでも、3人で一緒に暮らしたなら、やっていける。だが、もう充分すぎるくらいに大人である彼らが、独立せずに自分たちだけで暮らす姿は、考えようによったらそれだけで、ゆがんだものにも見える。普通ではない。相互の依存関係が煮詰まると、それだけで彼らは壊れていくしかない。

 姉は、かって占ったことのある女に偶然スーパーで出会う。彼女がその後、突然、家にまで現れ、驚かされることになる。彼女のストーカー行為のエスカレートから、この家族は壊れていく。淡々と日常生活を描いていたはずの小説がだんだんホラーの趣をなす。弟の自殺から、一気に崩壊していく様は、僕たちの日常というものが、いかに脆いものかを伝える。ありふれた日常生活が続くという保証なんてどこにもない。

 変わらない毎日、だと思っていた。ここまでなんの変哲もない毎日を、何の事件もなく見せていく小説も少ないだろう、と最初は思った。だが、それだからこそ、ほんのちょっとした綻びが、ここまで目立つことにもなるし、そこから崩壊がこんなにも簡単に起きる。怖い。

 タイトルにある「らいほうさん」について、必要以上の説明をしないのもいい。あそこに何が埋められていようとも、誰もそこを掘り起こしたりはしない。たとえ家族であったとしても、触れてはならないものがあるからだ。

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