とても上手い。役者たちの達者な芝居に舌を巻く。この作品に限らず最近の高校生たちは実に達者だ。昔はもっとへたくそな芝居をする演劇部員は大勢いた。だが、それはそれで愛嬌があり悪くはなかったし、微笑ましく思えた。でも、今の高校生は実に巧みに演じる。先日の池田高校を見たときにも、思ったし、この作品の後で見た緑風冠も、堺東だってそうだった。今回4本見て、4本とも、なのである。もちろんレベルの差はある。でも、そんなことは些細なことだ。手慣れた芝居をする、という言い方も可能だが、実に個性的、というほうがいい。
これは実に難しい芝居である。子どもの頃ヒーローと出会った少女がヒーローに憧れて自分も「ヒーロー」になりたいと願う。こう書くと幼く、バカバカしい設定に思われるだろうが、そんな設定でリアルにドラマを立ち上げるのだ。見事としか、言いようがない。(台本は楽静とあるが、たぶん、高校生が書いた既製の戯曲ではあろうが、凄い!)
小学生の頃のある出来事(数人の女の子に囲まれていじめられていた彼女を、ひとりの女の子がやってきて助ける。まるで『浦島太郎』だ!)が、高校生になっても彼女の心を支配する。
主人公の少女ヒイロは、進路面談で担任に、「将来の進路はヒーローになることです!」と平気で言える。この主役を演じる近藤百々花が実に達者なのだ。さらには、彼女のヒーローだったアサ、実は小学生の頃いじめていた少女スズメ、という主要人物3人のアンサンブルのすばらしさ。こんなバカバカしいお話に説得力を与える。
高校の屋上に行く、という学園モノの映画やドラマでは定番のシーン(現実にはあり得ないのに、誰も言わない)を、現実のものとして、実現させてしまうラストシーンは感動的だ。
いろんなところで細部がものすごくよく考えられて作られていてリアル。学校内でのウソをなぞるのではなく寧ろしっかり見せていて、納得のいく見せ方をしてくれる。例えば、3者懇談での母親と娘のすれ違い方、とか、夜の校舎、とか。ちゃんと観察していて、ウソとリアルの配合が見事。
芝居自体のテンポもとてもいい。1時間ですべて上手く収める。冒頭のイジメのシーン。いきなりのヒーローの登場。笑えるし、それだけではなく、とても感動的。つかみのエピソードとしても秀逸。これはヒーローを巡るお話なのだが、高校生の女の子が、将来の夢はヒーローです、といいきるのが、リアルって思えるなんていうあり得ないことを可能にする。彼女の中で、正義ってものに一切ブレがないのがいい。2人のヒーローの友情物語と彼女たちの戦いの記録を、進路のことで悩んでいて、不登校になったクラスメート(先に
書いたスズメ)を助けるという一点のみからストーリーを展開させたのも凄い。
校舎の屋上には出られないのなら、「見晴らしのいい高いところに行こう」という実にリアルで当たり前の展開から、一気にお話全体の謎解きに繋げる。笑えるくらいに安易な解決法のように見せかけて、巧みにお話を収束させる語り口の見事さ。(さらには、体当たりして、ちゃんと校舎の屋上にも出る律儀さ!)
担任教師もステレオタイプに見せかけといて、とてもリアル。彼女の割り切った言い方も凄い。「将来の役に立つ友だちを選ぼう」だなんて、ありえないことを平気でしゃあしゃあと言いながら、平然としている。そんな教師に対して、子どもたちは、刃向かうのではなく、自分たちの正論で迎え撃つ。これはあらゆる意味で、衝撃的な傑作だ。