この短編集は身に沁みた。まるで旅のエッセイのようなさりげなさ。ほんの一時の心の記録でもある。読みながら、主人公と一緒にこういう実にうら淋しい風景に身を委ねることとなる。さまざまな場所が舞台となる。彼が旅先で出会う街角の、路地裏の、飲み屋や食堂でのひと時が描かれる。冒頭の『月岡』では、幼い頃、死んだ祖母と来たことがある温泉を50年ぶりに再訪した男を描く。それって記憶の原点への旅ではないか。
以下、秋田(「千秋」)、鹿児島(「指宿」)、京都(「化野」)、と彼はさまざまな場所を舞台に、そこを旅する「主人公にまとわりつく官能と死、そして不在の気配」(帯の文句)を描く、ということになる。
彼は今、妻とは別居中であり、東京には恋人もいるが、旅先でもまた別の女とも関係を持つ。なんだかなぁ、とも思うけど、まあ、旅にはそういうのもあるのだろう。そして最後に邂逅した老女にも少女にも見えた「綺麗な女」とは、いったい誰だったのか。別にこれはミステリーではないけど、余白は埋められないままで、終わる。
いくつもの旅のスケッチというスタイルを取りながら、核心においてこれは主人公の作家(最初はこれは独立した短編連作で、主人公は同一人物ではないのではないか、と思ったくらいに淡い)の「誰か」との(それは会えないということで増幅する)記憶を巡るドラマでもある。僕たちをどことも知れない世界へと連れていく不思議な小説だ。
以下、秋田(「千秋」)、鹿児島(「指宿」)、京都(「化野」)、と彼はさまざまな場所を舞台に、そこを旅する「主人公にまとわりつく官能と死、そして不在の気配」(帯の文句)を描く、ということになる。
彼は今、妻とは別居中であり、東京には恋人もいるが、旅先でもまた別の女とも関係を持つ。なんだかなぁ、とも思うけど、まあ、旅にはそういうのもあるのだろう。そして最後に邂逅した老女にも少女にも見えた「綺麗な女」とは、いったい誰だったのか。別にこれはミステリーではないけど、余白は埋められないままで、終わる。
いくつもの旅のスケッチというスタイルを取りながら、核心においてこれは主人公の作家(最初はこれは独立した短編連作で、主人公は同一人物ではないのではないか、と思ったくらいに淡い)の「誰か」との(それは会えないということで増幅する)記憶を巡るドラマでもある。僕たちをどことも知れない世界へと連れていく不思議な小説だ。