今回の劇団未来は三島由紀夫の2本立て公演。しかも2本を2週間に渡って1日3回公演で、各9回上演。怒濤の18ステージである。僕は初日にまず男性キャストだけで贈るこちらから見ることに。しまよしみち、演出。彼が久々に役者としても出る。
渡辺舞による舞台美術が素晴らしい。斜めになっている白い3つの壁の組み合わせが彼らの揺れる心を視覚化している。これはヒトラーがヒトラー(しまが演じる)になるまでの物語。彼はふたりの友人を裏切って独裁者への道を歩み出す。
ヒトラーは舞台下手奥に向かって話している。たくさんの聴衆に向けて力強く演説をしている。それを3人は舞台袖(ここが芝居の舞台である)で待機して見ている。我々観客は3人の姿を見て彼らの話を聞く。下手側の観客にはヒトラーは見えないし、上手側の観客も彼の後姿がかすかに見えるだけである。
その後の冒頭シーンは4人が揃うが、それからは基本ふたり芝居になる。ヒトラーともうひとりが向き合い語る。ヒトラーはいつも卑屈で弱々しく、下手に出る。自分に自信がない。が、相対する親友のふたりは明らかに上から目線である。ヒトラーは彼らにとって取るに足らない存在でしかない。この両者との関係が面白い。だからヒトラーはふたりを切り離して接する。彼らを信用できない。さらにはナチスに多額の政治献金をするクルップ社の社長との対面も下手になって接する。そんな権力を手にする以前の彼、軍部と突撃隊の板挟みにあり、自分の無力を感じるヒトラーをしまよしみちが見事に演じた。たった4人の濃密なドラマを立ち上げる。
ラストのステッキで地面を叩くまでの90分。その音が強烈な印象を残す。それはヒトラーがヒトラーになる瞬間を告げる。