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映画・演劇のレビュー

『恋人たちの食卓』

2013-09-30 21:16:48 | 映画
 『そして父になる』を見てしまった後では、どんな映画を見てもむなしい。あの映画以上の感動はないからだ。もちろん、あの映画を超える映画を観なくてはならないわけではなく、しばらくは映画を見ないで静かに生きていこうと思えばいいだけの話だ。だが、そうはいかないのが、人生である。というか、僕、である。あの映画に匹敵する映画を観なくては収まらない気分で、でも、新作に挑戦するのは無謀なので、この映画を久々で見ることにした。

 アン・リー監督の最高傑作『飲食男女』だ。今から約20年前の作品である。そしてアン・リーが唯一故郷である台湾で作った映画だ。この作品の後、彼はハリウッドのメジャー映画に転身した。今の彼の映画も好きだが、この映画を含む初期の3部作が素晴らしすぎる。これは映画史に残る大傑作なのだが、正直言うと20年振りに見るから、細部も忘れているし、少し不安だった。もし、たいした映画ではなかったら、どうしようか、えい、その時はその時だ!

 心配は杞憂に終わった。最初の10分で大丈夫だと、わかった。是枝映画を見たときと同じだ。凄い映画を見ているという興奮の中、2時間はあっという間だった。時代を経ても変わらない、そんないい映画は確かにある。

 3姉妹の話だ。そして、彼女たちを育てた父親が主人公。妻を亡くしてから14年。まだ、幼かった娘たちを男手ひとつで育て上げた。だが、今、下の娘も20歳になり、家族の団欒は失われようとしている。日曜日の晩餐は彼らの絶対の約束だった。有名な料理人である父親が腕を奮う豪華な料理が毎週、食卓をにぎわす。

 映画の最初ではいつのも4人の晩餐が描かれる。クライマックスでそれぞれのパートナーを含む9人に膨れ上がった晩餐が描かれ、最後は次女と2人でのそれが描かれる。しかも、最後は次女が父を招待し、腕を奮う。初めて父親がここでの料理を手放した瞬間が描かれる。なんだか照れくさい。


 いつも、この食卓があった。おいしいものを食べて、生きる。人が何のために生きるのか、その答えがここにはある。

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