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映画・演劇のレビュー

『長江哀歌』再び

2008-05-24 23:15:05 | 映画
 ジャ・ジャンクーの『長江哀歌』がようやくDVDになった。昨年僕が劇場で見た映画のベスト・ワン作品である。さっそくレンタルしてきて再見した。やはり、すごい作品だった。英語タイトルである『スティル・ライフ』が本当にぴったりの作品だ。ひとつの現実をしっかり受け止めた上で心静かに生きていく。生活していく。

 ダムに沈む町。失われていく中国の昔ながらの生活。新しい生活が今までの暮らしを大きく変えて行く。近代的なビルが立ち並び、生活水準も上がり(本当は一部の富裕層だけだが)世界の一等国の仲間入りをしていく。しかし、大切な何かが音を立てて崩れていく。失われていく。

 この映画が象徴するものは、三峡という場所だけの問題ではないことは明らかだ。この国の美しさはその自然だけではない。そして、これは中国だけの問題でもない。

 山西省からやってきた2人の男女。(2人は全く別々に、ここにやってくる。だいたいお互いを知ることもない。映画の中で、2人は出逢いもしない。)16年前に分かれた妻と子を捜しにきた男。2年間連絡もないままの夫を訪ねてきた女。2人がそれぞれの配偶者を捜し、町をさすらう。そして、それぞれが再会を果たし、別れて行く。

 何かが音を立てて崩れていく。あのラスト・シーンも含めて、2度目なのに全く退屈するどころか、一瞬すら緊張の糸が途切れずラストまで息をつめて見てしまった。ジャ・ジャンクーの前作『世界』で発した警告が、ここではある種のあきらめとして提示される。これから僕たちはどこに向かっていくのだろうか。不安でならない。

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