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映画・演劇のレビュー

あさのあつこ『バッテリー』1・2

2007-05-19 07:54:23 | その他
 小学生だからといって、子供だとは思わない。大人以上にいろんな事を考えている。この物語は、そんな当たり前のことが、しっかり描かれてあるから好きだ。

 映画『バッテリー』のラストシーン(あれは、見事な幕切れだった!)のその後の顛末から、あの日の試合を綴った『ラストイニング』を読んだことで無性に原作が読みたくなった。巧と豪がいかに出会い、どんなふうに成長していくのかを、もう一度追体験するためだ。あの素晴らしい映画を見ているから、それだけで満足してるし、小説がつまらなかったら、かなりへこむ。イメージが壊れてしまうのも怖い気がしたが、2巻まで、読みほっとした。大丈夫だ。だいたいへぼい小説からあんなに素敵な映画は生まれない。

 映画版の子供たちも年齢以上に大人びて見えたが、原作は佐藤真紀子のイラストもあり、映画以上に大人子供として、描かれてある。この膨大な原作を映画はたった2時間ほどで、余すことなく描ききっていることを再確認した。1巻は転校から始まり春休みの出来事だけで終わってしまう。2巻だって中学入学から、野球部入部までで、約150頁。後半も顧問のオトムライとの確執までだ。このゆったりしたペースでは6巻まで読んでもあの映画のラストシーンまで追いつかないのではないか。

 原作がこれだけの膨大な分量で描かなくては表現できなかったものを、映画は小説のダイジェストではなく表現する。原作のエピソードを余すところなく描いているのに、悠々としたタッチで、ゆとりすら感じさせる。何よりも風景が美しいのがいい。心洗われる。それだけで十分満足できるくらいだ。ストーリーを追うことなんて二の次にしている。のんびりとした田舎の風景の中で、少年たちが、大好きな野球をのびのびと楽しんでいる。そんな姿を丁寧に捉えていく。

 もちろん大人の干渉もあったり、クラブの先輩のいじめとか、すべてが上手くいくわけではない。だけれども、つまらない話はさらりと流して主人公2人の心のドラマとしてうまく纏めてある。巧と豪の性格がしっかり描かれてあるのでがいい。映画も同じように、2人の気持ちが丁寧に掬いとってあったから、豊かな作品になれた。パターンになりそうでならないのもいい。そこがこの作品の生命線だ。巧を厭味な奴の一歩手前で止めてあるあたりが、心憎い。豪もただの「いい人」として描いてあるわけではない。彼らにリアリティーがあるから、小説はロケーションの魅力を最大限に生かした作り方で成功したが、それに負けない作品になったのだ。

 2巻の後半は2人の相克がかなり丁寧に描かれてある。これは映画ではできなかったことだ。今後どんな展開があるか、楽しみだ。この続きは、6巻まで読んだ後で。

 


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