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映画・演劇のレビュー

大阪新撰組『てるてる坊主』

2013-05-08 20:55:54 | 演劇
南陽子さんによる初の本格長編作品だ。事前の告知では、今回もオムニバス・スタイルと聞いていたから、早く長編に挑戦して欲しいものだ、とほんの少し残念に思っていた。だが、これは堂々たる長編戯曲だと呼んでもいい。2時間10分(休憩10分を挟む)の大作である。

 だが、作品自体はほんとにささやかな話だ。生活が破綻した家族がいる。明日の暮らしにも事欠く。父親と兄弟。そこに、わけのわからない男(てるてる坊主の化身だ!)がやってきて、仕事を与えるからやらないか、という。なんとも胡散臭いけど、電話で話を聞くだけの仕事だ、という。ますます胡散臭い。だが、1日で1万円という報酬に惹かれて、彼らは引き受ける。

 電話で相手の話を聞きながら、それが自分の人生と大きく関わることとなる。3人は3人とも、電話を通して今までの自分、これからの自分と向き合うことになるのだ。3人、それぞれのエピソードが独立しているから、一応オムニバスと判断したのだろうが、このスタイルならオムニバスと呼ばなくてもよい。(まぁ、そんなことは、この際、どうでもよい話だ。)

 電話を通して人と人とが向き合う。そこには、ある種の距離がある。しかも、一応は見ず知らずの相手である。(両者は他人同士なのだが、その背後にそれぞれがお互いのパートナーをそこに見る、というスタイルだ。あるいは気付かないだけで、相手はお互いのパートナーかもしれない、いうくらいの含みもある)他人だから、本心が話せるということもある。

 妖精のような存在であるこの電話悩み相談室のような会社(でも、相談ではなくただ話を聞くだけなのだが)の社長であり、てるてる坊主でもある男を介して、4組の男女が織りなすドラマが綴られていく。とても爽やかで気持ちのいい作品だった。余白が多いのもいい。南さんはわざと書き込まない。そうすることで、いろんな想像が可能になる。それを楽しんでいる。もちろん彼女だけではなく、僕たち観客も、である。


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