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映画・演劇のレビュー

藤野千夜『団地のふたり』

2022-05-31 18:01:22 | その他

読みやすくて、楽しくて、でもちょっぴり切なくて、一瞬で読み終えてしまった。ゆっくり読んだはずだけど、余白だらけで、サクサク読めてしまうのだ。もったいない。できることなら、もっと時間をかけて読みたかった。余白だらけを満喫したかったのだ。それくらいにこのどうでもいい話は素敵だ。こんなふうに過ごしていたい、と思わされる。ちょっぴり寂しいけど、それでもそんなふたりが愛おしい。

今ではもう古くなった団地。70年代の花形だったはずなのに。高齢者の老夫婦や、配偶者を失ったひとり暮らしの老人ばかりが目立つ団地でずっと暮らしている50歳のふたりの女性が主人公だ。幼なじみで、親友。ここで生まれ育った。本業はイラストレーターだけど、今はフリマアプリで細々と生計を立てている奈津子(母親と二人暮らし、でも、今は母親が親戚の介護で家を離れているからひとり)と、両親と暮らす大学の非常勤講師ノエチ(太田野枝)。時には喧嘩もするけど、ふたりはずっとなかよし。50年である。そんなふたりの日々の記録。

一応は5つのエピソードからなるけど、短編連作というよりただのスケッチ。特別なお話が描かれるわけではなく、日記のようなもの。描かれるのは彼女たちのただの日常生活。だからどこを切り取っても、どこで初めても、終わらせても、かまわない小説なのだ。だけど、つまらないわけではない。それどころか、読んでいるとなんだか彼女たちがとんでもなく愛おしくなる。幸せそうでも可哀そうでもない。無理もしてない。あきらめているのでも、流されているわけでもない。そんなじゃぁ、一体何なんだ、と言われそうなくらいにさりげない。この自然体がなんともいえず素敵だった。


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