「一生ものの友達 一生ものの恋 ともに奏でた音楽 僕らの10年の物語」
このコピー通りの映画が作れたならこれは「一生ものの映画」になるのではないか。監督は青春映画の騎手、三木孝浩。ピアノ、ドラム、ジャズ。彼の得意の音楽ものである。デビュー作『ソラニン』、代表作『くちびるに歌を』に続く音楽を扱う3作目だ。主題歌はもとオフコース(敢えて、ここではそう書く。あの頃のテイストを想起させるから)の小田和正。脚本は高橋泉。この布陣で、傑作が生まれないはずはない。そして、期待通りの大傑作になった。主役の3人もとてもいい。
ちょっと甘いかな、とは思うけど、これは一応ノスタルジーなんだから、このくらいの甘さは必要なのだと思う。1966年から67年にかけて、高校生だった彼らが出会い、音楽(ジャズ)を通して心を通い合わせていく、という青春映画の鉄板ストーリーなのだが、それがこんなにも心に沁みてくるのは、丁寧にあの頃のひとつひとつを慈しむように再現しているからだ。懐かしいだけではない。あるひとつの時代を、そこで生きたという事実を大切にする。そうすることでそのドラマは普遍性を持ち、特別なものとなる。
長崎の佐世保を舞台にした。2人の少年と、ひとりの少女がいる。彼らが出会い、同じ時間を過ごし、別れていくまでのお話と、10年後の再会までが2時間で描かれる。どこにでもあるお話がキラキラ輝く。『ちはやふる』が「今」を描く映画だとしたら、これは50年前の「今」を描く映画だ。三木孝浩監督にとっても1966年は見たこともない過去のはずなのだが、それをある種の普遍として描くことでこの映画はリアリティを獲得している。どんな時代、どんな場所であっても、そこに人がいて、そこで生きている人の数ほどドラマはある。大切な自分の人生を生きている人たちの姿は僕たちの胸を打つ。
10年後どんな大人になっているか、なんて想像もつかない。ジャズを通して心を通い合わせた。あの頃は音楽が全てだった。でも、それが仕事にはならない。10年後、3人はそれぞれ別々の仕事を持ち、別々の場所で生きる。でも、なぜか彼らはみんな「師」がつく仕事に就いている。ひとりは医師になり、ひとりは教師になり、もうひとりは牧師に、と。3人とも誰かを導き、助ける仕事だ。それが笑える。こいつら、らしい。
毎日あの坂道を登って学校に通った。10年後、坂道をのぼって、今ではあの高校の教師になっている彼女のもとを訪ねる。そして、ふたりであの日別れた彼のところに行く。ラストシーンが胸に沁みる。こんなふうにしてあれから10年生きてきたのか、ということが無言で伝わる。ここまで見て突然、その頃僕は(1976、7年だ)、あの頃(1966年)の彼らと同じ、高校生だったのか、と気付く。
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