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映画・演劇のレビュー

『サマーフィルムにのって』

2021-08-15 19:50:35 | 映画

高校生の女の子たちが文化祭に向けて映画を作る。これはそんな映画ささやかな映画だ。マニアックな設定である。でも、今の時代、誰でも映画を作れるから、特別なことではない。でも、今時映画研究部(なんで、映画部は映研って言うのかな?)なんて存在するのか。不思議。まぁ、高校生が作った映画が評判になり劇場公開されることはあるだろう。スマホがあれば作れる。でも、部活として、っていうのが、やっぱり僕には不思議。

70年代の映画研究部は8ミリ映画を作るために3分撮影するだけで現像料込みで2000円近くのお金が必要だった。当時はまだビデオなんかない。だから30分のフィルム代だけで2万である。NGなんか出したら悲惨だった。でも、素人だったから最初のころはピンボケや露出過多だとかまずそんなレベルの失敗だらけ。それでもお小遣いをためて、せっせとフィルムを購入して夢を買っていた。僕も高校時代映研だった。

今は幸せだ。いろんな機材もあるし、いくらでも撮影できる。編集も自在だ。でも、映画を作ることは簡単ではない。スタッフが力を合わせて、1本の作品が完成する。この映画を見ながら、今の子供たちも昔の子供たちも同じだな、と思う。こんなマニアックな高校生だって、確かにいるのだろう。時代劇オタクの女の子が主人公。彼女の周囲には彼女を支持して協力してくれる仲間がちゃんといる。映研(先にも書いたが、今の時代にほんとうに映画研究部なんて部活として存在するのか? しかも、なんか部員がたくさんいるし)ではなかなか理解してもらえないけど、でも疎外されているわけではない。ちゃんと居場所はある。

部としてはキラキラ青春映画を作ることになったけど、彼女は別にチームを組んでゲリラ的に時代劇を作ることになる。そんな彼女の前に現れた男の子は理想のキャストで、彼が主人公なら撮影ができると、彼を口説き落とす。最初は完全に拒否モードだった彼だが、参加してくれることになる。

実は彼は未来からやってきた男の子で、彼女の作る映画のファンだった、なんていうとんでもない設定がこの映画には用意されている。そんなSFにする必要は一切ないのに、隠し味としてそんな荒唐無稽な設定を入れた。正直言うとそれって別に必要のない設定だ。でも、盛りだくさんにした。なのに、映画はさりげない。必要以上にその設定にこだわらない。

みんなで合宿して撮影するとか、なんかとても青春している。文化祭のシーンなんて感動的だ。この映画を見ながら、なんかいろんなところが嘘くさいな、と思った。だけど、その嘘くささが嫌ではない。鼻につかないのは、彼女たちの想いがピュアだからだろう。描かれていることはリアルではなくても描こうとしていることはとても納得がいく。高校時代は夢の世界なのかもしれない。彼女たちの未来どうなるか、なんてわからないけど、あの時夢見た世界は現実なのだ。将来のことなんかに煩わされることなく、その瞬間だけを大事にする。そんな純粋さが彼女たちを輝かせる。ラストの無茶苦茶な展開だってそうだろう。そこまでの無茶をさらにさらに増幅するレベルの展開で普通なら唖然とするところだ。でも、見ていてそれでいい、と思わされる。文化祭で上映される映画はほんとうならずっと残る。でも、この1回こっきりの上映会がすべてだ。だから、納得がいかないラストシーンはその場で作り変える。彼女にとって、この瞬間がすべてなのだ。

最初の方で彼女たちの秘密基地(廃車されたバスの中にいろんな機材や生活道具をいれてアジトにしている)が出てきたとき、これは実に素敵だな、と思いつつも、ありえない、とも思った。でも、あれがこの映画のサインなのだ。ここは夢に場所のお話なのだ、という。そこを拠点にして映画の夢が始まる。この映画自体がなんだかおもちゃのようだ。商業映画のはずなのに、自主映画のようで、高校生が作った幼い映画のようにも見える。


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