習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『明りを灯す人』

2012-10-22 22:31:35 | 映画
 なんとも素朴で心優しい男の話。だが、そんな彼が目の前の現実に翻弄される。みんなのために盗電する彼は、警察に捕まり、その後もあれやこれやで、散々な目に会うことになる。

 この主人公が好きだ。こんなバカな人はなかなかいない。素朴すぎるから、生き辛いはずだ。現にこの映画の中でも困難な状況に追い込まれる。一生懸命だし、とても善良だ。だれが見てもわかる。だから奥さんにも愛されている。だが、世知辛いこの世の中では通用しない。こんな田舎の村ででも、ダメだ。ここにも近代化の波が押し寄せてくる。だいたい盗電はあかんやろ、と普通の人は言うはずだ。だが、彼は貧しくて電気代が払えない人のためにしている。いいじゃないか、そのくらい、と彼は思う。僕も思う。でも、警察に捕まる。まぁ、当然だろうが。映画はそこから始まる彼の受難劇である。

 見終えてなんだか切なくなった。映画自体も素朴だ。コ難しいことは一切いわない。一所懸命なんだけどなぁ、と思う。でも、ダメだろうなぁ、と思う。

 男の子が欲しかった。自分のような息子を持ちたかった。でもかなわない。風車で電気を起こしてみんなにタダで、電気を分け与えてあげたい。うまくいくはずもない。彼はそんなささやかな、壮大な夢を持つ。この映画で描かれるキルギスは美しい国だ。だが、政情は不安定で落ち着かない。そんな中で、自分らしく生きようとする。それだけ。でもそれだけの映画がこんなにも胸を打つ。



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