このモノクロ映画が描くのは豚小屋での記録だ。それだけ。93分ずっとブタたちにカメラを向けたまま。でも、そこにはこれといった劇的なドラマはない。なのに、なぜだか退屈しない。何もないのにずっと見てしまう。出産シーンから始まり、生まれてきた子豚たちが成長していく姿を淡々と描いていく。変化といえば、子ブタたちがだんだん大きくなっていることくらい。
ナレーションも音楽もない。カメラは必要以上には動かない。定点観測に近い。途中でニワトリのエピソードもある。片足のニワトリ。最初は鶏小屋を映しているけど足が描かれてないから、片足であることはわからない。牛のエピソードもある。こちらはただただ牛を映しているだけ。まぁ、ニワトリも豚もそうだったんだけど。
最後はトラックで子ブタたちは連れていかれるシーンで終わる。連れていかれた後、自分一人になった母親ブタを延々と捉えるシーンも圧巻だ。
豚、牛、鶏。これって僕たちが食べるお肉の断トツ、ベストスリーである。僕たちはこの子たちを食べて生きている。だからどうした、とかそんなことをこの映画は訴えるのではない。それだけ。なんだかよくわからないけど、ずっと見てしまい、見終えたとき、ふっと、ため息をつくことになる。なんかすごいものを見てしまったという実感が訪れる。
深遠な宇宙の謎を見つめたような壮大なスケールのドキュメントだ、とか、誰か言いそうだ。僕はただただ啞然としただけだ。何の感想も浮かばない。でも圧倒されている。ただ見つめ続けることで見えてくるものがある。生きること、その営み。だからそれが何なんか、とかは、一切言わない。