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映画・演劇のレビュー

濱野京子『レッドシャイン』

2011-11-29 20:40:43 | その他
終盤まで話があまり弾まない。最初はモタモタして、いつまでたってもドラマは動き出さない。ソーラカーレースというのが、あまりよくイメージ出来ないし、そこに辿り着くまでのドラマがなんだかカスカスで、エネルギー研の6人のメンバーも魅力的には描けていない。中盤まで読んだときにはこれは大丈夫か、と心配したほどだ。

ようやく、大潟村でのレースに突入したところから動き出す。だが、それはレースシーンがエキサイティングだから、ではない。玲と奈緒の話が明確になったからだ。主人公の玲が、この期間限定のレースに参加することで、自分の将来に対してもきちんと区切りをつけようとする。ようやく濱野京子らしい展開になり、小説が生き生きする。これはまたもや期間限定のドラマである。彼女の得意技だ。

『木工少女』は1年間、『ヘヴンリープレイス』はひと夏。今回はなんと3日間である。まぁ、それ以前のエネ研と関わり始めた春から夏までのドラマでもあるのだが。今回は、高3の1年間、厳密には入部からレースの行われる夏までの5ヶ月のドラマであり、その中心が3日間のレースなのだ。

 自分が何をしたいのか、わからないまま、流されるように生きてきた。でも、このままではダメだと思う。じゃぁ、何をするのか。わからない。わからないまま、クラブに誘われ、しかたなく、参加し、ドライバーとして、レースに出場する。何かが見えたわけではない。だが、この経験が彼をほんの少し変える。なんとなく、高専に入り、5年間を過ごし、卒業する。手先が器用だから、そこそこの成績を取る。だが、そんな生き方を良しとはしない。大学を受けようか、とも思う。しかし、明確な目的があるわけではない。ただ、今のままではいたくないから、それだけのことだ。不安定な心のままエネ研のみんなと過ごす時間は心地よく、なんとなくこのままいたいと思う。だけど、これは彼が抱く夢ではない。

これはそのことに気付くまでのお話だ。本当の夢を探すためのスタートを切るまでの物語としてきちんと完結する。


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