クロネンバークの新作かと思ったら、確かにクロネンバークだけど、息子の新作だった。ブランドン・クロネンバーグ監督の3作目、最新作。彼の映画を見るのは初めてかもしれない。(『ポゼッサー』は見ていたかも)
さて、本作だが、評判がかなり悪いみたいだ。えげつない描写でエロ下品な映画だ、とか、どこかで読んだ気がする。まぁ、僕は他人の意見は気にしないけど。(普段から事前情報は入れないで見る主義だけど、キネ旬の星取りとか毎日新聞の映画欄とかは、なんとなく見ることもある)
前半はかなり面白くて、期待を超える出だしだった。だけど、クローン人間の話になってから失速する。あまりに安易にクローンが出来るし、途中からは量産されたりしてバカバカしい展開になり、緊張感は無くなってくる。これはもしかしたら幻想かもしれないという安易な展開でもいいけど、それすら緊張感を持続するきっかけにはできていない。
このリゾート地の周囲は金網で包囲されてあり、ここから出ることはできないという設定の怖さも途中から半減する。この国の貧しい住民たちは金持ちの外国人に対して反感を抱いているからリゾート施設の外は危険だという設定が前半の車で施設外に出るエピソードでは生かされている。危機感を抱いて、能天気に遊び惚ける彼らの姿を見る。そしてあの酔っ払い運転からの事故につながる。ここまでは完璧だった。
そしてここからが本題なのだが、最初のクローンの死刑シーンまでで映画の緊張は途切れる。この先は雑な展開になってしまった。サロンに呼ばれて仲間入りさせられるところからラストまで。見せ方に難あり。お金があればなんでもできるという設定も安易。しかも肝心の怖さが持続しないのだ。リアルだった前半の怖さはもうなくなる。そしてなんでもありに堕す。
クローンは1体までにしてその設定を上手く使って話を展開させるべきだった。安易にクローンを連発したら安っぽいB級映画になる。せめて2体目はもっと大事に使って欲しい。自分はもう死んでいて、今いる自分はクローンではないか、という不安が生かされていないのももったいない。
それでも僕はかなり面白く見ることができた。それだけにこれは惜しいし、やはり残念な映画だったというしかない。父のDNAを受け継いで、この先きっとあの偉大な父を乗り越えるそんな映画を作って欲しい。次回作を楽しみにしている。